研究内容
自然環境系が有するの5つの部門(地球科学、系統分類、生態、環境計画、生物資源)と、研究拠点である「兵庫県立人と自然の博物館」が連動しながら研究に取り組んでいる。これからの未来に向けて人と自然がよりよく関わっていく方法を見いだすことが大きな目的の一つである。調査・研究は「自然環境と居住環境」「自然・自然資源の評価と保全」「人間活動の自然環境に対する影響」「地域振興と地域資源の活用」といったテーマを軸に行っている。
また、地理情報システムを活用した地域の自然・生物の生息状況、人間活動による自然改変のデータベース化も進めおり、調査・研究内容は行政および国政などの各種委員会における報告や提案、提言としても役立てている。
年報
2020年度
地球科学研究部門
発掘調査および化石クリーニング作業のようす
地球科学研究部門は、わたしたちの生活基盤である大地の成り立ちや、そこで営まれているさまざまな地学現象と生物進化に関する調査・研究を行っている。研究の特色は、数千年から数億年というタイムスケールで長周期の地球環境の変動をとらえ、グローバルな観点から地域環境の諸問題を考察することにある。このため、研究対象は兵庫県にとどまらず、日本列島・東アジアの形成過程や、そこでの自然環境の変遷と生物の進化を解明することにまで及ぶ。研究の材料としては化石を扱う場合が多く、化石も大型の脊椎動物化石から顕微鏡レベルの微化石に至るまで多岐にわたる。
兵庫県下は西南日本内帯(一部外帯も含む)のほとんどの地質が出現し、玄武洞・生野鉱山・六甲-淡路断層帯が「日本の地質百選」に選定され、但馬地域では2010年10月に山陰海岸ジオパークが世界ジオパークネットワークへの加盟が認定されるなど、国内でも有数の多様な地質が分布する地域である。研究部門では、兵庫県各地の地形・地質・岩石・化石、ならびにそれらが形成された背景にある地学現象について資料を収集しながら、調査・研究を進めている。長い地質時代を通じて形づくられた大地と地域の自然環境の成り立ちを解明することは、今後の開発や災害対策など、地域環境の保全のあり方を考える際の基礎となる。したがって、研究だけでなく、その成果の社会還元にも積極的に取り組んでいる。
最近では、兵庫県下の多様な地形・地質・化石から、地域づくりや環境学習として利用できる自然史素材を見出し、その活用法をさぐる研究にも着手している。とくに、2006(平成18)年8月に丹波市山南町で竜脚類の恐竜化石(通称「丹波竜」)が発見されてからは、篠山層群(中生代白亜紀前期の地層)における化石の発掘調査と古生物学的研究を進めながら、恐竜化石などを生涯学習やまちづくりへ活かしていくための取り組みを地元の行政機関と連携しながら進めている。
丹波竜の骨格復元図(2012年現在)
【研究テーマ】
- 兵庫・日本列島・東アジアの形成過程、自然環境の変遷過程、古生物の系統進化の考察
- 兵庫県各地の地形、岩石、地質、化石やそれらの背景となる地学現象の資料収集
系統分類研究部門
本研究部門は動植物の形態学、分類学、進化生物学、種生物学、生物地理学など、系統分類学に関わる諸分野の研究によって、日本から東・東南アジアにかけての地域における生物相の由来と種の多様性を中心に調べている。これらの基盤研究により、地球規模の環境問題の大きな課題として注目されている、生物多様性と生態系の維持・保全のために有効な提案を行なおうとするものである。実際に、兵庫県内の山地林や里山林、東南アジアの熱帯多雨林における生物多様性の解析、生態系保全に大きな成果をあげつつある。
本研究部門のこれまでの研究テーマとして次のようなものがある。
- 兵庫県の植物相・動物相の解明と生物地理学的研究
- アジア・オセアニアの熱帯・亜熱帯島嶼に見られる爬虫・両生類の系統分類と生物地理
- 東南アジア産被子植物の分類学的・植物地理学的研究
- 熱帯雨林生物多様性に関する研究
- 植物標本のデジタル化に関する研究
- わが国における外来種の在来生物相へのインパクト
- 有鱗目爬虫類における形態形質の進化
- カメムシ目を中心とした昆虫類の系統分類学的研究
- クモガタ類の系統分類学的研究
- 植物、昆虫等を素材とする自然史教育、環境学習の展開
研究の過程で収集される膨大な数の標本類は、兼務先である兵庫県立人と自然の博物館に収蔵されている。とりわけ兵庫県産標本は兵庫県の自然資源の評価に必要不可欠な資料で、それらの解析によって得られたデータは、兵庫県版レッドデータブックの基幹資料として活用されている。標本類はまた、絶滅危惧種の保全や環境学習などの基礎資料としても重要である。これらの標本資料の収集・保存管理・活用は、当研究部門の主要な仕事の一つである。また、博物館の展示、普及教育等により、社会に向けて環境問題を提示して行く事も当部門の大切な仕事の一つと考えている。
生態研究部門
生態研究部門では、人間活動の影響を含む生態系の研究を中心に、幅広い視野をもった研究活動を展開している。研究成果は、地理情報システムを利用して生物の生息状況や人間活動による影響をデータベース化し、その解析結果を「自然環境情報」として県政支援や市民の学習支援に活用している。
生態学の研究は、さまざまなスケールでの時間的・地域的変動を念頭においてデータを集積し、その解析を通して生態学的な原理や法則を探っていく。そのために、研究者が「短期間で目に見える成果」をあげることは当然だが、長期的な視野をもって調査研究に取り組むことも重要である。生態研究部門では、河川などの地域性が複合的に入り組む流域生態系の問題、種間相互作用を通した種の多様性維持のメカニズムと地域生態系の保全、人為的環境改変が野生動物に及ぼす影響の理論的解析などで成果を上げている。20世紀後半の人間活動の増大は、深刻な地球規模の環境問題をもたらした。その原因の一端は、研究者が原理的発見を求めるあまり生態系への人為的影響研究を過小評価してきたこと、研究成果を充分には市民社会に還元してこなかったことに求めるべきであろう。人間活動を対象に取り込んだ生態系の研究と成果の市民社会への還元は、自然と調和した人間活動を実現させ自然環境の持続可能な活用方策を示す、「21世紀の生態学」として社会に重要な位置を占めるであろう。
環境計画研究部門
本研究部門には、都市計画、建築、緑地計画、まちづくりなど、様々な生活環境に係わる分野の専門家がいます。この様々な視点から、'住んでいる人から見た'住みやすい地域づくり、すなわち「住民主体のコミュニティ・デザイン」の研究や活動支援をしています。一方、都市部から山間部まで、長期的な地域全体の環境整備についても調査・研究を行っており、生物生息環境等に配慮した、環境形成の手法や管理技術を提案しています。
これまでの取り組みとして次のようなものがあります。
- 県下各地域のビオトーププランや地域ビジョンの策定協力、新全総の推進にむけての住民主体の環境形成調査など(行政支援)
- 住環境の向上に寄与する生け垣緑化推進、まちづくりの基礎となるコミュニティ形成調査など(住民参加・主導型地域づくり支援)
- 被災直後の被害実態報告や復興計画への提案、仮設住宅の実態調査、緑のまちづくり支援など(震災復旧・復興支援)
- 県立公園などの緑空間を中心とした、都市部~郊外住宅地~山間部のコミュニティデザイン
今後も、住民やNPOと行政とが良きパートナーとなって地域をつくるために、橋渡しをするシクタンク型の研究組織として活動していきます。
生物資源研究部門
生物資源研究部門は生物多様性(生態系・種・遺伝子)の保全に向けた様々な研究を行っている。これらの研究を進めるために、本研究部門では、ジーンファームとよばれる実験圃場と生きた種子を保存する種子保存庫などの施設を備え、植生学、植物生態学、植物分類学、保全生態学、土壌生態学などの研究者を擁している。
生態系の多様性に関する研究では、照葉原生林・照葉自然林・照葉二次林・照葉人工林・里山林・孤立林・チガヤ草原・湿原などを対象とした植生学的研究をおこない、その保全・復元・創出のための方法・技術などを開発し、研究成果を行政機関などに積極的に提案しているほか、各種団体と協力して具体的な保全活動を進めている。
種の多様性については、上記のジーンファームや種子保存庫などの施設を活用して、兵庫県産の絶滅危惧植物であるフジバカマ・コウホネ類・ヒナラン・クモラン・ケキンモウワラビ・ヒメウラジロ・ツクシガヤなどの増殖や種子保存などに関する研究を実施すると共に、一時避難などの活動も進めている。
遺伝子の多様性については、コウホネ類・オオアカウキクサ・エドヒガン・照葉樹林構成種などを対象に遺伝子の種内変異・地理的変異の実態解明を目指した研究に取り組んでいる。
本研究部門では、これらの研究成果や人と自然の博物館のデータバンク機能・ジーンバンク機能などを活用したシンクタンク活動にも積極的に取り組んでおり、国、府県、市町、民間などが進めている環境アセスメントや尼崎21世紀の森事業、野生動物育成林整備事業、里山防災林整備事業といった様々な事業に協力している。
本研究部門の主な研究テーマは以下のとおりである。
- 照葉原生林・照葉二次林・照葉人工林の生態的特性に関する研究
- 沖縄県西表島における照葉原生林の種組成および種多様性に関する研究
- 兵庫県における里山の保全・再生に関する研究
- 孤立林の生態的特性に関する研究
- 環境林の創出に関する研究
- 各種植生に対するシカの影響に関する研究
- シカの不嗜好性植物を用いたシカ食害地の植生復元に関する研究
- 三田市と宝塚市における中間湿原の管理に関する研究
- 棚田の畦畔に分布する半自然草原の保全に関する研究
- 六甲山と砥峰高原におけるススキ草原の保全・再生に関する研究
- 生物多様性に対する外来植物の影響と外来植物の管理に関する研究
- 植物に対する地球温暖化の影響に関する研究
- 山陰海岸ジオパークエリアにおける海岸生植物の分布に関する研究
- 竹林の管理に関する研究
- 絶滅危惧種の生態的特性に関する研究
- 絶滅危惧植物の遺伝的特性に関する研究
- 絶滅危惧植物の種子発芽特性と種子保存方法に関する研究
- 絶滅危惧植物の増殖に関する研究