ひとはくの髙田主任研究員が令和元年度土木学会賞(論文奨励賞)を受賞しました
土木学会賞とは
土木学会賞は学会創立後6年目の1920(大正9)年に「土木賞」として創設されました。以来、大戦終了後の1945年から48年までの余儀ない中断はあるものの、90余年の伝統に基づく権威ある表彰制度です。(※公益財団法人土木学会ホームページより引用)
論文奨励賞とは
論文奨励賞は、原則として、土木学会誌、土木学会論文集、その他土木学会の刊行物に研究、計画、設計、施工、考案、維持管理などに関する論文を発表し、これが土木工学における学術・技術の進歩、発展に寄与し、独創性と将来性に富むものと認められた若手研究者で、受賞者の年齢が受賞年の4月1日現在で満40歳未満である者に授与する。ただし、候補論文は候補者が筆頭著者の単一の論文とする。(※公益財団法人土木学会ホームページ「土木学会表彰規程」第7条3より引用)
「論文奨励賞」受賞論文名
妖怪伝承を知的資源として活用した防災教育プログラムに関する一考察[土木学会論文集H(教育)Vol.75, No.1, pp.20-34, 2019.]
髙田 知紀
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論文の概要
本研究の目的は、日本の地域社会のなかで人びとが語り継いできた妖怪を、防災減災における知的資源として捉え、その利活用方法を提案することである。妖怪伝承のなかには、地震や津波、洪水、水難事故といった災害と関連するものが多数存在する。そのなかでは、妖怪の働きが、災害の誘発要因、災害の予兆前兆、災害状況の説明、災害の回避方策、災害履歴の伝達、という5つの類型で語られる。リスクの伝達装置としての妖怪伝承の構造をふまえ、社会実験として、子どもたちが新たな妖怪を考え出す作業を通じて、地域の多様な危険を認識し、その対策を検討する「妖怪安全ワークショップ」を展開した。その成果として、子どもたちが経験したことのないような大規模自然災害のリスクも適切に把握し、危険を回避するための方法を導き出すことができた。妖怪安全ワークショップでは、まず地域の危ない場所を子どもたち自らが探す。そのあと、危ない場所に現れる妖怪を考え、さらにその妖怪に襲われないための対策も提案する。
小学生が考えた妖怪「バターン」。地震が起きるとブロック塀を押し倒して人に危害を加える。この妖怪に襲われないためには、揺れを感じたら塀からすぐ離れる。
【論文公開ページ(J-Stage)】
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejeep/75/1/75_20/_article/-char/ja/
※注意:J-STAGE公開日(2019/7/20)から1年以内は、土木学会の会員のみの閲覧ですが、それ以降は誰でも閲覧することができます。
「論文奨励賞」受賞理由
日本各地で語られてきた妖怪伝承は、風土性のなかの多様なリスクに対する人びとのインタレストが表象化したものである。特に本論文では、妖怪伝承のなかに自然災害に関するものが多くあることに注目している。妖怪伝承が防災教育における知的資源として活用できることを理論的に提示するとともに、社会実験として「妖怪安全ワークショップ」を実施することでその実効性を検証している。本論文の重要な貢献は、科学的なアプローチとは異なる新たな防災教育の枠組みを構築している点にある。その意味で、今後の地域防災の取り組みの先鞭をつけるものであり、研究の将来性も有していることから論文奨励賞に相応しいと認められた。【参考】
■ 令和元年度土木学会賞受賞一覧(論文奨励賞)(公益財団法人土木学会ホームページ)