ひとはく研究員の発表論文紹介(2019年)
わさび vs. ヒアリ:マイクロカプセル化わさび成分のヒアリ忌避剤としての有効性のベイトトラップを使った検証.
Wasabi versus red imported fire ants: preliminary test of repellency of microencapsulated allyl isothiocyanate against Solenopsis invicta (Hymenoptera: Formicidae) using bait traps in Taiwan
2019年11月発行著者:Hashimoto Y. et al.
掲載誌:Applied Entomology and Zoology, 54巻, 193-196, 2019年
内容紹介:台湾のヒアリ汚染地域で、マイクロカプセル化ワサビ成分を含有したシートとベイト・トラップ(資料参考)を用いて、ヒアリが特に好む餌(ベイト)への忌避効果の検証実験を行いました。その結果、ワサビ成分を含有しないシートを設置したトラップでは、平均 157 匹のヒアリがベイトに誘引されたのに対し、ワサビ成分シートを設置したトラップでは、ベイトに誘引されたヒアリは0匹で、完全にヒアリを餌に寄せ付けないことが確かめられました。今後,このシートをコンテナ物流の梱包資材として活用することで,ヒアリ侵入前防除手法の確立を目指しています.
実験で用いたベイトトラップとマイクロカプセル化わさびシート
兵庫県南東部のアカマツ・コナラ二次林におけるカキノハグサの生育立地特性
Habitat traits of Polygala reinii in secondary Pinus densiflora-Quercus serrata forests of the southeastern parts of the Hyogo Prefecture
2019年11月発行著者:黒田有寿茂・小舘誓治
掲載誌:植生学会誌、36巻1号、1-16、2019年
内容紹介:カキノハグサは近畿、東海地方に分布する日本固有の多年生草本です。本種は二次林の林床や林縁など比較的身近な環境でみられますが、各地で減少傾向にあり、分布の確認されている府県の多くで絶滅危惧種に指定されています。本研究では、カキノハグサがどのような特徴をもつ二次林に生育しているか、野外調査と標本調査(さく葉標本の閲覧と採集地情報の収集)から調べ、本種の保全に向けた植生管理の必要性と留意点についてまとめました。
アカマツ・コナラ二次林の林床に生育するカキノハグサ。
和名は葉がカキの葉に似ていることから。
花(目立つのはがく片)は黄色で、初夏に咲きます。
ハワイ諸島と台湾からそれぞれ見つかったオオタマコモチイトゴケ属Aptychellaの2新種
Two new species of Aptychella (Pylaisiadelphaceae, Musci) from Hawaiian Islands and Taiwan.
2019年11月発行著者:秋山弘之, James R. Shevock
掲載誌:Bryological Research 11巻12号, 337-345. 2019年
内容紹介:1973年に報告されて以来,正体がよくわからなかったハワイ産の蘚類について,あらたに採集されたサンプルを合わせて解析したところ,タマコモチイトゴケ属の新種とするべきことがわかりました。また台湾で著者自身が採集した植物も,これまで知られている中で最も小型の植物をもつ同じ属の新種だと判明し,合わせて記載・報告しました.
Aptychella hawaiica(ハワイ諸島固有) | Aptychela属の系統樹 |
伊豆諸島固有種ニオイエビネと広域分布種ジエビネの自然交雑
Natural hybridization patterns between widespread Calanthe discolor (Orchidaceae) and insular Calanthe izu-insularison the oceanic Izu Islands.
2019年11月発行著者:中濱直之, 末次健司, 伊東あずさ, 日野正幸, 遊川知久, 井鷺裕司
掲載誌:Botanical Journal of the Linnean Society 190巻, 436-449. 2019年
内容紹介:ニオイエビネは伊豆諸島の一部の島にのみ分布する希少なラン科植物です。また一方で、日本の本土に広く分布する近縁種のジエビネも伊豆諸島に分布しています。遺伝解析と形態解析により新島、神津島、御蔵島で交雑パターンを調べた結果、南の島ほどニオイエビネの割合が高く、本土に近いほどジエビネの割合が高いことがわかりました。また、伊豆諸島で多い小型ハナバチ類が花粉を運ぶ過程で、交雑が生じたことが考えられました。
ニオイエビネ(伊豆諸島固有) | ジエビネ(広域分布) |
聴覚失認者に認知しやすいチャイム音は存在するか?
Are there chime sounds easy to hear for persons with auditory agnosia?
2019年11月発行著者:三谷雅純
掲載誌:福祉のまちづくり研究 21巻、13-23、2019(福祉のまちづくり学会誌)
内容紹介:緊急災害放送では注意喚起のチャイム音が付きものです。しかし聴力は正常で音は聞こえるのに、「音」を「音」として認識できない聴覚失認者にとって「注意喚起のチャイム音」とはどんなものなのでしょう。もし脳に届いていても、認知できないのなら意味はありません。そこで失語症を含む高次脳機能障害の皆さんにお願いして、「聴覚失認者に認知しやすい緊急災害時のチャイム音」を視聴覚実験で確かめてみることにしました。聴覚失認者は言語音の聞き取りが苦手ですので、負荷刺激として記号としてのアルファベットとトランプの柄、それに一桁の足し算・引き算を暗算してもらって、チャイム毎の注意喚起力を調べることにしました。結果は、負荷が軽いか繰り返しがあれば、聴覚失認者でも大抵のチャイム音には注意喚起されることが分かりました。
実験に使ったチャイム音を視覚化した図
詳しくはこちらをご覧ください。
>>「聴覚失認者に認知しやすい緊急災害時のチャイム音」に関する論文の出版について
兵庫県立大学自然・環境科学研究所のWebページでも紹介をしています。
>>研究報告「聴覚失認者に認知しやすい緊急災害時のチャイム音」を探る視聴覚実験を行いました。
小・中規模植物標本庫に適用可能な、簡便・低予算で最低限の画質を担保した植物標本画像撮影方法の開発
Simple but long-lasting: A specimen imaging method applicable for small- and medium-sized herbaria
2019年6月発行著者:A. Takano, Y. Horiuchi, Y. Fujimoto, K. Aoki, H. Mitsuhashi, A. Takahashi
掲載誌:Phytokeys 118巻 1-14 page 2019年
内容紹介:2012年に人と自然の博物館に寄贈された頌栄短期大学植物標本コレション25万点の整理を加速するため、2017年11月から標本画像撮影作業に取り組んでいる。アルバイトさんにも一定画質の画像が撮影可能なよう装置を工夫し、LEDライトで一定の光量を確保し、のちのOCRラベルデータ取得を想定し周辺部までゆがみの少ない画像を撮影できるカメラとレンズの選定を行った。現在1日平均571枚の標本撮影を行っており、2018年7月現在、7.4万点の標本撮影が終了した。
撮影された頌栄短大植物標本
海浜植物ウンランの海流散布の可能性
Thalassochory potential of the coastal dune plant Linaria japonica
2019年6月発行著者:黒田有寿茂・藤原道郎・澤田佳宏・服部 保
掲載誌:植生学会誌、35巻2号、117-124、2018年
内容紹介:海浜植物の種子が海流や潮流によって散布されるかどうか(海流散布の可能性)調べていくことは、その地理的分布の背景や保全上の留意点を理解・検討していく上で重要です。本研究では、太平洋沿岸や瀬戸内海沿岸で減少している海浜植物ウンランの海流散布の可能性を評価するために、種子の浮遊能力と塩水接触後の発芽・出芽能力を調べました。その結果、ウンランはいずれの能力も備えており、長期間の海流散布が可能な種であることがわかりました。
ウンランの花(左上)、若い果実(右上)
熟した果実(左下)、種子(右下)
自然系博物館における小さな子ども向けの日「Kidsサンデー」の設定とその初期効果
Setting of the Day for Small Children at the Museum of Natural History "Kids Sunday" and it's Early Achievements
2019年6月発行著者:小舘誓治・高瀬優子・古谷 裕・八木 剛・高橋 晃
掲載誌:博物館学雑誌(全日本博物館学会), 第44巻 第2号, 83-86 , 2019年
内容紹介:ひとはくでは、様々な年齢の方にプログラムを行っています。この論文では、月の第1日曜日を「Kidsサンデー」と呼び、小さな子どもとその家族向けの体験型のプログラムを実施していることを紹介し、その初期(スタートして3年間)の効果(未就学児の来館者数の増加など)について報告しています。
「Kidsサンデー」での体験型のプログラムの様子
岡山県に侵入した侵略的外来種アルゼンチンアリの防除に向けた、遺伝子型の同定
Identification of the mitochondrial DNA haplotype of an invasive Linepithema humile (Mayr, 1868) (Hymenoptera: Formicidae) population in Okayama Prefecture, Japan, for its effective eradication.
2019年6月発行著者:中濱直之*, 前原 裕*, 瀬古祐吾*, 飯田恭平, 澤畠拓夫, 早坂大亮 (*同等に貢献)
掲載誌:Entomological News128巻、217-225、2019年
内容紹介:生態系や人間活動に大きな被害を与えるアルゼンチンアリが岡山に侵入したのは2012年ですが、まだどんな遺伝子を持つアルゼンチンアリかは不明でした。アルゼンチンアリは持っている遺伝子によって、薬の効き方が異なっています。今回の研究から、アルゼンチンアリは"Japanese main"という遺伝子型を持つアリであることが分かりました。このタイプは狂暴である反面、フィルロニル殺虫剤が効きやすいとされていることから、防除への応用が期待されます。
アルゼンチンアリ (瀬古祐吾氏 撮影)
近畿地方初記録の絶滅危惧植物、コツブヌマハリイ
Endangered species Eleocharis parvinux Ohwi, Newly discovered in Kinki district.
2019年6月発行著者:藤井俊夫・織田二郎・レッドデータブック近畿研究会
掲載誌:近畿植物同好会々誌.42号、29-32、2019年
内容紹介:ヨシ原で有名な淀川の鵜殿で、近畿地方初記録となるコツブヌマハリイを採集しました。コツブヌマハリイは、利根川の遊水湿地(渡良瀬遊水地)で発見され、日本固有の植物とされます。東北、関東、四国、九州で記録がありますが、近畿では初めての報告となります。ヨシ原の一画で、背丈の低い草本が生育している空隙地に一個体群が見られました。環境省の全国版RDBで、絶滅危惧II類に指定されています。証拠標本は、京都大総合博物館に収めました。
コツブヌマハリイの花