生物多様性大作戦!のツアー型セミナーとして、7月2日から6日まで、亜熱帯の島、西表島で生き物観察会をしました。
ひとはくからは、太田(動物、西表島の生物全般)、池田(地質)、上田(マングローブの植物と人びとの暮らし)、高橋(植物)の4名が講師で行きました。17名の参加者のみなさん生き物や自然が大好きの方々で、早朝から寄るまで活発に活動され、西表島特有の亜熱帯の大自然を満喫しました。
7月3日は、兵庫県立人と自然の博物館 御一行様という札を掲げたバスに乗り込み、島の東部の前良(マイラ)川・後良(シイラ)川のマングローブ林観察に行きました。道沿いは牧場になっているところが多く、牛と一緒にいる鳥、アマサギの姿をよく見ました。道端の電柱にはカンムリワシの姿も見られました。
旅館前からバスにて出発
電線に止まり獲物を探すカンムリワシ
まず午前中に前良川でマングローブ林とサキシマスオウノキを木道上から見た後、午後には後良川へ移動し、オヒルギ、ヤエヤマヒルギなどが密生するマングローブ林のなかに入り、そこに住む小動物、ミナミトビハゼ、オキナワハクセンシオマネキ、キバウミニナ、シレナシジミなどを観察しました。
後良川のマングローブ
マングローブに入り、生き物観察
飛び出した目がかわいいミナミトビハゼ
長細い巻き貝、キバウミニナにヒルギの葉を与えたところ、数十分後には食べつくしていた。
ヒルギ類の胎生種子も観察しました。胎生種子は、樹上で発芽して長く伸びた状態の種子で、それが干潟の泥中にささるとすぐに生長できるようになっています。
ヤエヤマヒルギの胎生種子。これが泥中に刺さって芽生えます。
途中、環境省の野生生物保護センターに寄ってイリオモテヤマネコを見ました。といっても剥製とビデオですけど。実物を見てみたいものですが、そう簡単には見られません。センターではヤマネコ以外にも西表島の希少生物について丁寧に解説してありますので、必見のポイントです。
イリオモテヤマネコ(剥製)。家猫と同じくらいの大きさです。
夕方、降りて歩ける干潟を探し、あちこち動きましたが、朝とおなじ前良川まで戻り、河口部の干潟に降りました。ミナミコメツキガニの大群が、我々の歩く前をどんどん逃げて行きます。おもしろくて、追いかけながら干潟の先端まで歩きました。他にもエビやゴカイの卵など、おもしろい動物がいっぱいでした。
干潟の生き物観察へ出発
逃げていくミナミコメツキガニ。近づくと砂に潜ります。
干潟にはマングローブ植物も進出しています。地面からやや太い呼吸根を出しているハマザクロ(別名マヤプシキ)を見て感激しました。
干潟の最先端まで進出しているヤエヤマヒルギ
マヤプシキ。不思議な名前ですね。地面から呼吸根が立っている。
初日の夜に宿の近辺をナイトウォークしたのですが、サキシマハブには遭遇しませんでした。何とか見せたいということで、太田・池田の両名が夜遅くまでヘビ探しに行きました。今年は梅雨時に雨が少なかったとのことで、カエルの鳴き声が聞こえない。ということはそれを狙うヘビも少ないということで、結局サキシマハブを捕らえることはできませんでしたが、代わりにサキシママダラ、オカガニ、サキシマヌマガエルが捕まりました。
さっそく宿では、遅くまで待っていた人たちによって大撮影会が行われました。
太田研究員の指にかみつくサキシママダラ。逃がしてくれ〜
サキシママダラ撮影会。腰は引けててもカメラは前に出てきます。
7月4日は浦内川をボートで遡上し、その後、亜熱帯の深い照葉樹林の中 をカンピレーの滝まで歩きました。
浦内川の船着場・軍艦岩から歩き始める。
照葉樹林のなかは緑でいっぱい。顔からは汗がいっぱい。
木に巻きついて上るハブカズラ
樹林帯の中は風がなくて蒸し暑く大変でしたが、展望台から見たマリュドゥの滝は神秘的で感動しました。残念ながら事故が多発したとのことで滝のそばまで入る道は封鎖されていました。
亜熱帯林の中の神秘的なマリュドゥの滝
林内ではサキシマカナヘビやイシガキトカゲが見つかりましたが、亜熱帯の森林はあまりに多様すぎて、植物に関しては消化不良のまま終わりました。
コウトウシラン
美しい緑色をしたサキシマカナヘビ
イシガキトカゲ。宝石のように美しい尻尾が印象的。
広々と気持ちのよいカンピレーの滝。ここでお弁当を食べるとカラスがやってきます。
夢中になって観察していたら、あっという間に時間がたちます。ツアー3日目となりそろそろ疲れがたまってきたなかでの、一日中の山歩きだったので、足取りの重い人も出てきました。最後は午後4時の最終船出発の2分前に船着き場に到着という離れ業でした。危ないところでした。体力などを考慮して早めの行動を心がけなければいけなかったと、反省したのでした。
7月5日最終日は、西部の祖納地区にある古民家「新盛家住宅」を訪れました。木造茅葺き建築として沖縄最古といわれ、築140年になるということです。家の周りにはフクギの大木がたくさん植えられ、平たいサンゴ石を積み上げた石垣に囲まれています。これらは防風の役割をもって、台風から家並みを守っています。沖縄らしさを味わうことのできる場所でした。
茅葺屋根の新盛家住宅を見学する参加者
石垣が美しい路地。大きな木はフクギです。
その後、北部のユツン川、大見謝川の周辺で、川の生き物を観察したあと、最後の締めくくりとして、最南部の南風見田(ハエミダ)の浜へ海浜植物を見に行き、浜に流れ着く植物の種子をみんなで探して歩きました。
海岸を歩いて打ち上げられた木の実などを探す。
沖縄の海によく似合う、オオハマボウ
砂の中に隠れていたツノメガニ。正面から見ると怖い顔です。
サキシマスオウノキやアダン、ゴバンノアシの実、モダマの豆も見つかりました。ゴバンノアシの実の外側は硬いが、内部はスカスカの繊維状になっていて海水に浮かびます。こうして海水により種子が運ばれるのを海流散布といいます。海に囲まれた西表島では多くの海流散布植物を見ることができました。
ゴバンノアシとココヤシの実。ゴバンノアシの実の大きさにびっくり。ココヤシの実はどこから流れ着いたのでしょうか。
アダン。パイナップルのようで美味しそうに見えますが、繊維が強くて食べられないそうです。
夕方といっても浜は灼熱地獄さながら、夢中になって歩いていて気がつけば汗ダラダラでした。海での採集は大変です。
ハマユウの咲く浜辺。夏本番という感じです。
翌日は帰る日でしたが、早朝のサガリバナ・クルーズがあるとのことで、朝5時過ぎに起きて、急きょ参加しました。仲間川を遡上すると、美しく咲き誇るサガリバナの群落がありました。花が水面にぽたりぽたりと落ちて流れてゆく様は幻想的です。サガリバナの甘い香りに包まれながら、盛んにカメラのシャッターを切ったのです。
ピンク色のサガリバナ。無数の糸状に伸びたものは雄しべです。
サガリバナの花は、花弁と雄しべだけが水面に落ちて流れていきます。
その後サキシマスオウノキの大木も見て帰りました。くねくねと這いまわっているような巨大な板根は驚きです。
日本最大のサキシマスオウノキ。巨大な板根にみんなびっくり。
生物多様性大作戦の目玉の一つとして企画した西表島の生き物観察会でしたが、予想通り亜熱帯の西表島には多様な生物がいっぱいでした。それらを実際に目で見て、手に触れ、生息環境とともに体感することのできたツアーでした。
(高橋 晃・自然環境評価研究部)