1. はじめに
常木勝次博士 は主にアジア地域のハチ類1,426新種を記載されたハチ類 分類学の世界的な権威者です。 当館では博士が記載された日本産のハチ類377種のホロタイプ(完模式)標本373点とパラタイプ(副模式)標本172点を収蔵しています。タイプ標本とは新しい生物種が記載されたときに基準とされた標本のことを言います。特にホロタイプ標本は全ての生物のそれぞれの種について1つしか存在しないもので,その種をめぐる分類学的な諸問題が生じたときに研究者が問題解決のよりどころとできる唯一無二の標本です。タイプ標本を安全に保管し,研究に活用できるように整理することは博物館の最も重要な役割であり,そもそも博物館というものはこの役割のために創出されたのです。このため,博物館の規模や特色をその博物館が収蔵するタイプ標本の数や種類で語ることさえあるほどです。文字通り世の中に二つとない常木博士のハチ類のタイプ標本は当館の特筆すべきコレクションであり,また当館を特徴づける昆虫コレクションであるといえるでしょう。
当館ではこのタイプ標本が国内外のハチ類研究家に活用されるよう整理登録を行い,収蔵資料目録「A LIST OF THE TYPE-SPECIMENS OF HYMENOPTERA DESCRIBED BY K. TSUNEKI IN THE MUSEUM OF NATURE AND HUMAN ACTIVITIES, HYOGO (MNHAH)」を1997年3月に発刊しました。目録では種名,その種が記載された 論文データー,採集データーをリストしただけでなく,もし記載論文中の採集データー と標本ラベルのデーターにくい違いが有る場合や標本に欠損などが有る場合にはその 情報を記しました。さらに90種についてはそのカラー写真を掲載して画像でも標本の 状態を確認できるようにしてあります。標本の状態やデーターを細かく記載した目録 を作成しておくことは標本取り違えなどの混乱を防ぎ,タイプ標本がより良い状態で 研究に活用され続けるために必要なことです。 さらに,この常木タイプ標本目録を当館のホームページで公開することにしました。 ホームページ版目録ではタイプ標本のデーターを各自のパソコンで検索できるように 工夫しただけでなく,膜翅目昆虫の生態や形態,分類の概説を多数の標本画像ととも に見れるようにしました。タイプ標本は一般の人々がなかなか目にすることのできな いものです。 常木タイプ標本をインターネット上で公開することで研究者に便宜をはかるだけで なく,広く一般にもタイプ標本というものの存在や重要性,それを保管する博物館 の必要性などを知ってもらいたいと考えています。
(橋本佳明 中西明徳 人と自然の博物館)