最古のゴリラ祖先化石を含む哺乳類化石群を産出したエチオピアのチョローラ層の年代とその意義に関する論文の出版について
趣旨
日本とエチオピア他の国際研究チームが、エチオピア中部に分布するチョローラ層から800万年前の類人猿を含む哺乳動物化石群をサハラ砂漠以南の地域で初めて発見、報告しました。これらの化石と新たに判明した年代は、ゴリラなどの現生のアフリカ類人猿と人類の系統が700~1000万年前にアフリカで生じたという考えを支持するものです。この研究成果は加藤茂弘主任研究員を筆頭著者とする英語論文にまとめられてNature誌(査読付き国際学術雑誌)に投稿され、受理・出版されます。
1 報告された化石とその年代
ゴリラの祖先化石は学名をチョローラピテクス・アビシニクス(Chororapithecus abyssinicus)といい、研究チームが2007年に発見・命名した化石類人猿で、現生のゴリラの祖先に位置付けられました。今回の研究では、その年代が約800万年前であることが確実にされました。その他の哺乳動物化石群には、ゾウ、カバ、イノシシ、ウマ、レイヨウ、げっ歯類、ウサギ、肉食獣、オナガザル類などが含まれ、700万年~900万年前の4つの層準から数百個産出しています。
2 執筆者
加藤茂弘 主任研究員(県立人と自然の博物館)
諏訪 元 教授(東京大学総合研究博物館)
兵頭政幸 教授(神戸大学)
三枝春生 主任研究員・准教授(県立人と自然の博物館・兵庫県立大学)
ほか15名(国内7名,エチオピア・アメリカ合衆国など国外8名の研究者)
3 論文掲載誌
「Nature」(査読付き国際学術雑誌)Springer Nature 社(イギリス、ロンドン)
4 論文標題
英文:New geological and paleontological age constraint for the gorilla-human lineage split
和訳:「人類とゴリラの分岐年代に対する新しい地質学的および古生物学的な制約」
5 研究成果の特筆すべき点
・サハラ以南のアフリカ大陸では800~900万年前の信頼できる年代が示された哺乳動物化石はこれまでに報告がないため、この時代の化石は人類の起源と出現過程をひも解く重要な鍵です。本研究はそのような化石群の世界で最初の報告になります。
・チョローラピテクスを含む新たな化石群は、類人猿やサルなどの哺乳動物たちが700~900万年前の時代にアフリカ大陸の中で進化していたことを示しています。これは、現生のアフリカ類人猿と人類の祖先がアフリカで生じたことを強く支持するものです。
・ゴリラの祖先系統に位置するチョローラピテクスの年代が800万年前とされたことから、人類とゴリラの分岐年代はそれよりも古くなる可能性が示されます。これにより、最近のDNA解析に基づき提案された、人類とゴリラの分岐年代が約1000万年前、人類とチンパンジーの分岐年代が約800万年前とする「深い分岐仮説」が、化石の証拠から裏付けられることになります。
・世界的な研究成果を日本の公立博物館の研究者が報告する例はきわめて稀です。県立人と自然の博物館は、丹波の恐竜化石発掘に関連した報告に象徴されるように調査・研究に基礎を置き、その成果の発信と活用に努めてきました。今回の報告は、当博物館および兵庫県教育委員会の長年の支援があってこそなされたものです。
6 担当
兵庫県立人と自然の博物館 自然・環境評価研究部 主任研究員 加藤 茂弘
新たに800万年前の年代が確定したチョローラピクテス化石(左)とオナガザル類の化石(右) ©諏訪 元
チョローラ化石サイトの位置を示したエチオピアの地図 チョローラ堆積物の遠望 ©諏訪 元