アリそっくりに擬態するアリグモ属が、擬態によって跳躍力や獲物の捕獲能力を低下させていることを発見
兵庫県立大学自然・環境科学研究所
兵庫県立人と自然の博物館
あまりに、そっくりに化けると損もする
-アリそっくりに擬態するアリグモ属が、
擬態によって跳躍力や獲物の捕獲能力を低下させていることを発見
1 概要
兵庫県立大学自然・環境科学研究所/兵庫県立人と自然の博物館の橋本佳明准教授・主任研究員、神戸女学院大学の遠藤知二教授、兵庫県立大学/兵庫県立人と自然の博物館の山崎健史准教授・主任研究員、岡山大学の兵藤不二夫准教授、京都大学の市岡孝郎教授らの研究グループは、アリグモ属1)がアリそっくりに擬態する代償として、本来持ち合わせていた跳躍して獲物を捕獲するという能力を大きく失うことを明らかにしました。
これまで、世界中で200種以上にアリグモ属が確認されていますが、その全ての種がアリに擬態するハエトリグモ科のクモ類です。これらアリグモ属は、アリ擬態2)によって外敵から身を守っていることが既存研究から明らかになっています。しかし、アリ擬態によって生じるアリグモ属の代償についてはこれまで明らかになっていません。
そこで、本研究グループはマレーシア領ボルネオ島やタイ国で捕獲したアリグモ属7種と擬態していないハエトリグモの跳躍能力や獲物の捕獲成功率を計測し、両者の捕獲能力を比較しました。その結果、擬態していないハエトリグモは体長の3倍ほどの距離を跳躍できるのに対し、アリグモ属7種は最大でも体長と同じぐらいの距離しか跳躍できないことが分かりました。また、その跳躍力の低下に伴って、アリグモ属の獲物の捕獲成功率は大きく低下していることが判明しました。
本研究によって、アリグモ属の精緻なアリ擬態は高い防衛効果をもたらす一方で、その生存に大きな不利益をもたらすという諸刃の剣であることが判明しました。同じ調査地での先行研究から、アリ擬態したアリグモ属は非擬態クモ類よりも栄養段階が低くなり、花外蜜腺や半翅目昆虫の甘露を頻繁に摂取するアリ類に似た食性をもつことが分かっています3)。つまり、アリグモ属はアリ擬態による獲物の捕獲能力の低下を、植物由来の栄養で補っていると考えられました。
熱帯は擬態する生物の宝庫であり、本研究成果のように、擬態する生物の多様性が生まれ、維持されている理由を解明することは、熱帯の生物多様性の保全にも繋がると考えられます。また、擬態は一部の研究者だけでなく、多くの人々を惹きつける話題です。本研究の成果は生物多様性の不思議や貴重さを広く伝える契機になると期待されます。
この成果は、2020年10月26日に、Nature系列の査読付きオープンアクセス誌「Scientific Reports」に掲載されまし
※1)、2)、3)の用語説明については、別紙をご参照ください。
2 詳細
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3 論文情報
(1) タイトル
Constraints on the jumping and prey-capture abilities of ant-mimicking spiders
(Salticidae, Salticinae, Myrmarachne)
(2) 著者
Yoshiaki Hashimoto*, Tomoji Endo, Takeshi Yamasaki, Fujio Hyodo & Takao Itioka
(* 責任著者)
(3) 雑誌・号・doi
雑誌・号:Scientific Reports(2020年10月26日)
doi:https://doi.org/10.1038/s4159 8-020-75010-y
4 問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ】
兵庫県立大学自然・環境科学研究所 准教授
兵庫県立人と自然の博物館 主任研究員
橋本 佳明
電話:079-559-2001