その1:アベロン県ってどんなところ
南仏アベロン県のサン・レオン村は,詩情豊かな語り口で虫たちの生態を綴った「昆虫記」で有名なファーブルの生誕地です。じつは,兵庫県とアベロン県は姉妹県。そして,ひとはくは,ファーブル生誕を記念してサン・レオン村に建てられた世界最大の昆虫館ミクロポリスと交流活動を行っています。
この秋,兵庫とゆかりのある南仏の自然を探訪し,昆虫記を生み出した風土やフランスの人々の自然への関わり方を,みなさんといっしょに体験したいと考えて,ひとはくツアー「ファーブル生誕地南仏アベロンの自然とミクロポリス探訪」を企画しました.
ツアーで訪れるアベロン県はフランス中南部、ミディ=ピレネー北東部に位置し,面積は8,735km2,人口はおよそ26万人ほどです。一帯はグラン・コースと呼ばれる石灰岩の高原地帯で,その渓谷に架かる道路専用の「ミヨー橋」は主塔の高さがエッフェル塔や東京タワーよりも高い343メートルに達する世界一高い橋として知られています。主要産業はロックフォールチーズに代表される畜産業ですが,昔から変わらぬ中世の町並みの美しさ、グラン=コース地方自然公園をはじめとする大自然、どんなアウトドアーでも楽しめる山川などの理由で観光産業も盛んです。また,同県にあるサン・レオン村には,ファーブル生誕を記念して世界最大の昆虫館「ミクロポリス」が設立され,毎年8万から10万人の来館者が訪れる観光スポットになっています。
写真1 ゆったりとした時間がながれるアベロン県の丘陵地帯
写真2 アベロン県の宿泊地ミヨーは中世の町並みがのこり,南仏の古都と呼ばれています
写真3 畜産業が盛んで,おいしいお肉やチーズ,そしてワインが楽しめるところです.
写真4 アベロン県サン・レオン村はファーブルの生誕地で,彼の生家が残されています
ツアーの出発は2011年9月27日(火曜日),帰国は10月3日(月曜日)。6泊7日のツアーです。参加費用は29万円(予価)。往復交通費だけでなく,宿泊費や朝夜4回の食事代も含まれています。申し込み締め切りは8月1日まで。ご応募及びお問い合わせは,ひとはく生涯学習課まで,ご連絡ください。私といっしょに,初秋の南仏へ,旅立ちましょう.みなさんのご参加をお待ちしております。
(自然評価研究部 昆虫共生系 橋本佳明)
生物には世界共通の名前が付いています。これを学名と言いますが、時々名前が変わることがあります。その例をヘビイチゴで紹介します。
学名は、普通「属名」と「種小名」の2つの部分からできています。人の名前にあてはめると、姓が「属名」、名が「種小名」を表します。例えばよく庭に植えてあるパンジー(三色スミレ)は、学名をViola tricolorと言いますが、Viola(スミレの仲間)が属名、tricolor(三色の)が種小名で、「三色の花をつけるスミレ」という意味になります。
さて、ヘビイチゴの学名ですが、果実がオランダイチゴに似ていることからオランダイチゴ属(Fragaria)に入れられたり、独立したヘビイチゴ属(Duchesnea)とされたりしてきました。オランダイチゴ属で扱う場合は Fragaria chrysantha、ヘビイチゴ属として扱う場合は Duchesnea chrysantha とされます。
ところが、最近の遺伝子解析の結果から、ヘビイチゴはオランダイチゴよりもキジムシロ属(Potentilla)に非常に近いということが明らかになりました。キジムシロ属植物は、ヘビイチゴと同じような黄色い花をつけますが、ヘビイチゴのように果実(果托)は膨らみません。つまり、ヘビイチゴとオランダイチゴの果実の類似は「他人の空似」で、ヘビイチゴはキジムシロと同じ仲間として扱うべきだと考えられました。
写真3 キジムシロ属の果実
ところが、ヘビイチゴをキジムシロ属に含める場合、学名上の問題が生じます。ヘビイチゴをキジムシロ属(Potentilla)として扱う場合、通常であれば、Potentilla chrysantha となります。ところが、この学名はすでに別の植物に対してつけられたもので、別々の植物に同じ学名がつくと、混乱を招きます。ちょうど同姓同名の人がいた時に、名前だけでは区別がつかなくなるようなものです。このような場合、後からつけられた名前には別の名前をつける必要があります。
そこで、ヘビイチゴの学名は Potentilla hebiichigo と変えられました。
「hebiichigo?」と思った人、よく気が付いてくれました。アルファベットだと思って素通りせず、なんてすばらしい!!
この名前は日本人が付けたのです。ですから、日本で使われている名をとって Potentilla hebiichigo(ヘビイチゴと呼ばれるPotentillaの仲間)という名前になったのです。
ヘビイチゴは田んぼや畑の脇などに生える多年草で、北海道から沖縄まで広く分布しています。春に黄色い花を咲かせ、その後真っ赤な実をつけます。実がデザートに食べる苺(オランダイチゴ)に似ているので「蛇苺」と言いますが、毒があるわけではありません。
これまでのお話は→
ヘビイチゴの話 その2
http://hitohaku.jp/blog/2011/05/post_1219/ヘビイチゴの話 その1 http://hitohaku.jp/blog/2011/04/post_1175/
今回のトピックス展示では、博物館への問い合わせの多い種を中心に新しく製作した5種6点の標本を紹介しています。青とオレンジ色が美しく、水辺の宝石とも呼ばれるカワセミ。林の中を素早く動きまわり、羽根の黄緑色と眼の周りの白の対比が美しいメジロ。
(2007年3月 愛媛県松山市
陽光という桜の栽培品種の花を訪れたメジロ。)
カワセミやメジロと比べると見た目は地味だけど、木の幹をつつきまわり「タラララララ」という軽快なドラミングを聞かせるコゲラ。目立つ色彩のオスと比べるとちょっと知名度が低いイソヒヨドリのメス。
(2010年4月 三田市
博物館のベランダを訪れたイソヒヨドリのメス。)
小さい体に紅いくちばし、胸のオレンジ色、黄色いラインの入った羽模様のソウシチョウ。野外ではじっくりと観察することが難しい小鳥たちをひとはくに見に来ませんか?
北村俊平(自然・環境マネジメント研究部)