この3人は研究だけでなく,ファーブルのように昆虫研究のおもしろさを伝える読みものを多く出版し,日本のファーブルと呼ばれています.そして,彼らがファーブル昆虫記によって昆虫研究の世界に導かれたように,彼らの本を読んで,次の世代の子供たち(私もその一人)が,昆虫研究の世界へと導かれることになったのです。
7月20日から開幕した夏休み特別企画「ファーブルたちの夏〜昆虫の世界2011」では,日本のファーブルのひとり,常木勝次が残した昆虫細密画を初展示しています.
これらの細密画は常木が観察したハチ類の記録を残すためや,その形態を勉強するために描いた原図の一部です.体形はもちろんのこと,体表の点刻や体毛までも正確にスケッチをしています.なかには,ハチの体色を色付けした図や,ハチのほんとうの大きさに合わせて描かれた図もあります.昆虫の形や生態を科学的に観察して、それを正確に描いた細密画には,写真や普通の絵画では得られない、観察者が自然から受ける感動が伝わってきます。
日本のファーブルと呼ばれる常木の昆虫細密画の世界に触れ,その自然観察眼のすごさを感じていただければ幸いです.そして,私のように,また一人,新しい日本のファーブルが生まれる切っ掛けになればうれしいです.
橋本佳明(自然評価研究部)
常木勝次(1908年〜1994年)
ファーブル「昆虫記」を読み,その幼少期が自分と似ていたこともあって,ハチの研究に興味をもちました.常木の研究方法は,行動観察からハチの学習能力を調べることでした.この点で,ファーブルの研究スタイルを最も引き継いだ日本の昆虫研究者です.常木は,また,ハチ類分類学の世界的な権威者で,1,426新種を記載しました.その標本のほとんどが人と自然の博物館に保管されています.標本といっしょに,昆虫細密画や観察ノート類も寄贈されました.