長い冬もようやく終わり、日ごとに春らしさを感じられる今日この頃です。春の花と言えば、カタクリや、ハクサンイチゲに代表されるスプリング・エフェメラルが有名です。
エフェメラルは、カゲロウのような短命な、はかないものを指します。カタクリなどに代表される、春植物は、ブナ林などの林床に生育し、雪どけとともに花を咲かせ、樹木の葉が展開して、上層が覆われる5月後半から6月初めにかけて果実をつけて地上茎を枯らして、翌年の春まで約9カ月の間、休眠する植物を言います。西日本の里山には、ブナ林が少ないため、林床に一面にカタクリなどの咲く光景は見られませんが、さまざまな植物が花を咲かせ始めています。河原に生えるネコナヤギ、常緑樹のヤブツバキ、田んぼの畔などの春の七草、少し遅れて4月になれば、さまざまなスミレやタンポポが咲きだします。
ここで、少し花の送受粉について考えてみましょう。ネコヤナギなどのヤナギ科は、春先に花を咲かせることと、花が目立たないことで、風媒花(花粉が風で運ばれる花)と思っている人が多いのではないでしょうか。
ヤナギの仲間は、ヤマナラシ(ポプラの仲間)を除いて、ほとんどが虫媒花(昆虫が花粉を運ぶ花)です。雄花を強くたたいても、スギやヒノキ、ヤシャブシのような大量の花粉は出てきません。ヤナギの仲間は、春先に現れる小さなアブやハエの仲間が花粉を媒介します。
ネコヤナギ♂ ネコヤナギ♀
ヤブツバキは赤い目立つ花を咲かせます。これは蜜を求めてやってくるメジロなどの鳥をひきつけ、花粉媒介をするために赤くなっています。ツバキの花に嘴をつっこんで、口の周囲が花粉で黄色に染まったメジロを見かけることがあります。
スミレのような距(きょ:花の後ろにつき出て、蜜をためている、ツリフネソウなどが代表的)を持つ花では、花の中にもぐりこめる、小さなヒメハナバチなどが花粉を媒介します。
カタクリやサクラソウなどの、花筒が細く長い植物にはマルハナバチやギフチョウなどが蜜を求めてやってきます。春の陽だまりの中、花を訪れる昆虫の行動をじっくり観察するのも楽しいかもしれません。
藤井俊夫(自然・環境再生研)