先日、岩手県北上市で行われた木材採集会に行ってきました。植物採集でなく、あえて木材採集というのは、山に生えている樹木を切って、その樹幹を集めるからです。樹幹を集めるためには樹木を伐採しなければならないので、ふつうの植物採集のように簡単にはいきません。まず林野庁に国有林での伐採許可を申請し、許可書を取ってから管轄の森林管理署へ出向き、許可エリアの山や林道の様子を聞き、林道ゲートの鍵を貸してもらって初めて山へ入ります。
山では、おもに花や実をつけている樹木を探し、直径20 cm以下の細い樹木を鋸で切り倒します。太い樹木の場合は、チェーンソーを使い樹幹から材ブロックを採取します。
切られた樹幹にはラベルをつけ、花や葉と合わせて写真を撮ります。
枝先を採って証拠さく葉標本としますが、高い樹木の枝の採集が大仕事で、電線保守用の高枝切りを操るには若者の体力と、年配者の熟練した技術との共同作業が必要です。
採集会は現地よりも宿舎に帰ってからの方が大変です。重要な仕事は標本作りと食事の用意です。標本班は、乾燥機にかけている標本の乾燥具合のチェック、さく葉標本の形直し、)、材標本からプレパラート用の小さなブロック切り出しなど、夕方5時から7時過ぎまで休む間もなく作業が続きます。
夕食は食事班が食料の買出しと料理を担当し、標本整理が終わるころ交代で入浴し、8時過ぎにようやく全員そろって夕食です。調査は基本的に自炊で、10数人の食事を朝、昼、晩と作るのはかなり大変ですが、美味しくても不味くても、自分たちで作った食事での酒盛りは楽しいものです。夜11時頃までには就寝して、翌朝は6時からまた標本チェックと朝食準備。食後、お昼のおにぎりを作って、8時には山へ出発します。合宿のような採集会ですが、フィールド経験の浅い若い人たちには、現地での樹種鑑定や伐倒、標本作りなどの技術習得の場として重要な意味があります。
この木材採集会は、(独)森林総合研究所(森林総研)が主体となり、国産全樹種の木材組織識別データベース化を目的として、樹幹(材鑑標本)、証拠さく葉標本、画像資料、DNAサンプルなどを収集しています。私もひとはくの開館前から参加して、おもに樹種同定とさく葉標本作りで協力してきました。それらの材鑑・さく葉・プレパラートの重複標本は、ひとはくの収蔵庫にも保管しています。
1万点近い日本産材をしかも証拠標本つきでそろえた森林総研の木材標本庫は、世界的に貴重な標本庫として認識されるようになってきました。しかし、まだ国産全種の収集には遠く及んでおらず、木材採集会は今後も継続されることになっています。
高橋 晃(自然・環境評価研究部)