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ユニバーサル・ミュージアムをめざして46

 

「気が付くと『ユニバーサル社会』が出現していた」のご感想など

 

三谷 雅純(みたに まさずみ)


 「ユニバーサル・ミュージアムをめざして42:気が付くと『ユニバーサル社会』が出現していた」 (1) には、思いの外、多くの方からご感想をいただきました。ありがとうございます。このひとはくブログで、いくつかを紹介いたします。文意を変えないように気を付けて、わたしの責任で、一部、書き直しています。

 わたしが提起した話題は、ある大学で本当に起こっている事です。だからだと思いますが、大学の現教員や元教員の方からの感想が多く寄せられました。どの方も「学生の現状には、ほとほと困り果てている」という事だと思います。ただし、わたしの意図としては「学生の受講態度を非難する」のではなく、「将来が想像できない(学生を含めた)人びとの姿に気が付いた」という事でした。ある方はその事を、

 ひとはくブログを読ませていただきました。気付かないうちに出現していた「ユニバーサル社会」は確かに居心地が悪く納得できませんね。市民も受け身で自ら動き真理を探究してはいないという印象です。「大学」とは名ばかりの場所の住人の,こうした振る舞いは,しばしば耳にします。これでは三谷さんの目指す「ユニバーサル」な社会は遠いと思います。同時に三谷さんの「ガッカリ」さも想像します。残念ですね。理想の状況ではないのに,気がつけばそうだったなどということがないよう私達もいつも目を覚ましていないといけないな,と思いました。

と書いて下さいました。別の方は、もっと直接的に、

 底辺私立大学の現状は、ほんとうにひどいです。

と書かれましたし、

 今回のひとはくブログに考えさせられました。今の社会、夢や希望はどこへ行ってしまったのでしょうか……。

と書いて下さった方もおられます。

 よくわたしに感想を下さる ある男性は、具体的な事例や意見を交えて、次のように書いておられます。

 『ユニバーサル・ミュージアムをめざして42』を読んで驚きました。大学がおかしくなって来ている事は、新聞で読んだり、ラジオで聞いたりはしていました。三谷さんが実際に変になっている大学へ教えに行っておられたとは、というところです。

 まだ会社で働いていた頃、新しく入社して来た若い人々の中に、「そんな事は、教えてもらっていません。」などと言う人が混じるようになって、「へえっ」と違和感を持ったものです。殆(ほとん)どの人は大卒で会社員になっているのに、仕事の事で、そんな事は教えられていませんと言うのは、どういう事かと思いました。私らが入社した頃は、先輩が色々と教えてくれるという事などありませんでした。自分で、本や雑誌などを読んで、仕事の事を調べたり、先輩がやっているのを見て覚えたりするのが一般的でした。私の場合、入社したのは小さな会社で、私の担当になった部署に先輩は居ませんでした。研修先で教えていただいた仕事上の参考文献を購入し、仕事をして行ったものです。それと、時々は工業研究所の先生に相談しに行ったりしました。

 ○○市で中学に入学した時、校長先生が祝辞で、「君達は、今日から子供ではありません。大人の仲間入りをしたのです。今日からは、責任を持って、紳士として行動しなさい。」と言われました。“紳士”とは何の事かと思ったのですが、要するに大人らしくしろと言う事だと理解しました。急に大人としての自覚が持てるものでもないのですが、先生方が子供扱いしてくれないので、その内 何とはなく それなりの自覚を持つようになるものです。

 今は、高校生でも子供扱いしていませんか。高校生だけではなく、大学生すら子供扱いしているのかも知れません。それで、三谷さんが教えに行っておられた様な幼稚な大学生が居る大学ができてしまったのかも知れません。

(中略)

 人によるのかも知れませんが、早くに子供扱いを止めてしまうと、それなりに大人として振る舞えるようになるのではと思うのですが、如何(いかが)でしょうか。(○○市の中学校のように)中学生には、大人の自覚を持つように教育方法を変えて行くのも、一つの方法かも知れません。

 (私より)ずっと年上の方の中には、昔のように兵役を取り入れるべきだなどと言われる人もあるようです。子供っぽい高校生らには、何か社会訓練を義務付けると、大人の自覚が持てるようになるかもと言う方も居ます。

 日本が豊かになった結果の現状なのかも知れません。いよいよとなれば、生活保護も受けられますし。昔は、生活保護を受けるのは恥しい事だという意識があり、苦しくとも一家全員で頑張っていたようだと妻が言っていた事があります。他人からの援助、行政からの援助も潔(いさぎよ)しとしない意識も、子供を早く大人らしくする事になっていたと思います。

☆   ☆

 中学校で教えておられた元教師で、兵庫県域の水生昆虫にも詳しい西村 登さんは、

 ブログに「大学生と呼ぶのをためらうほど幼く……授業は成立しませんでした」とあります。他の方の著書を読んでも、現代の大学生の授業態度の悪さ、話を聞かない態度を嘆いておられました。小・中・高でも同様のことがあると聞いています。私は幸い体験していません。(三谷さんが話題にしておられる場所は)「大学」という名前の付いた営利企業ですから、昔の大学の理想の形とは程遠いということでしょうか。

と書いた上で、

 「幼稚な学生を定年退職した高齢者が教える」とありました。私も、数年間、小学校の環境体験学習の支援講師として十校余に出かけました。幸い児童(小3)たちは 私の授業(野外活動と内業)に集中して参加してくれ、担任から「子供らがこんなに集中したのははじめてです」と言って頂きました。

「今日はカゲロウさん、トビケラさんが先生です。仲よしになってほしいな」と 小3の子供たちの感性に訴えたこと、子供の目線で全力で子供たちに相対したこと、担任に事前にあって話し合い、合意の上、側面から支援したこと、私自身楽しかったことなどが成功した要因であったと思います。

 以上、私の小さな体験をくどくど述べましたのは、指導者は学習者の目線に立って支援することの大事さを子供たちから教えられた……ということをお伝えしたかったのです。

 そして昔の大学教育は子弟間のつながりが深く、師や先輩に感化されるという点が多く、かつ少数精鋭のエリート教育だったということでしょう。

と書いて下さいました。元大学の教員をしておられた方は、次のような感想を寄せて下さいました。

 大学生の教室風景がユニバーサル社会だというのには、笑ってしまいました。なるほどそういう見方もあるのか……という感じです。世の中、病気もしない、どこも悪くなくても、そういう(ユニバーサルな)状態ってあるんですねぇ。

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(1) 「ユニバーサル・ミュージアムをめざして42:気が付くと『ユニバーサル社会』が出現していた」

http://hitohaku.jp/blog/2013/12/post_1820/

 

三谷 雅純(みたに まさずみ)
兵庫県立大学 自然・環境科学研究所
/人と自然の博物館

ひとはく は 長い間メンテナンス休館をいただいていましたが、いよいよ本日より開館です!

開館を待ちわびていたのか?

最初に訪れたのは・・・大雪のお客様でした!

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朝からの雪で5センチ以上積もっています。

ここは空気がとってもきれいだから

積もった雪はさらさらで真っ白です。

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でも寒さを忘れて子ども達は元気に遊んでいます。

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真白くなった深田公園を笑顔で走りまわって、

疲れたら雪のふかふかのお布団でひとやすみ。

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寒くなったら、ぜひ博物館に暖まりに来てね♪♪

              情報管理課 船越

ひとはくの避難訓練

2014年2月 7日

メンテナンスによる冬期休館も本日で終了。明日からの開館に備え、三田消防署の指導でひとはくでは防災訓練を実施しました。

館内各フロアからの避難誘導、非常持ち出し、救護活動など各職員で再確認しました。

 

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         避難を終えたひとはく職員                  「火災発生!」

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         消火器を使った消火訓練                  「消火成功!」


ひとはくは、1月6日から2月7日(金)までメンテナンスのため休館していましたが、2月8日(土)から通常通り開館します。皆様のご来館をお待ちしています。 

 情報管理課 阪上勝彦

みなさ~ん、お久しぶりです!

 

○○くんに○○ちゃん、○○ちゃんのお母さん、○○くんのおじいさま。みなさんお元気でしたか?

 

元気なお友達は、しばらく会わないうちに背が伸びたのではないですか?

 

長~いお休みを頂き、博物館もスタッフもリフレッシュ充電完了です(*^_^*

 

メンテナンス休館も2月7日(金)で終わり。
/8(土)から開館します♪

 

image001.gif早くみなさんに会いたいな~~~

みなさんのお越しを心よりお待ちしております。

           フロアスタッフ一同

ユニバーサル・ミュージアムをめざして45

 

多文化であることの苦しみと寂しさ

 

三谷 雅純(みたに まさずみ)

 


 わたしは大阪で育ちました。大阪市でも南の方です。大阪の南には、昔は南蛮貿易や港町として名高い自由都市(つまりアジール)だった堺があります。そんな環境で育ったので、近所には いろんな人がいるのが当たり前でした。その人たちがいろいろな価値観を持って地域で暮らし、地域に根付いている。そのことを当たり前だと思って暮らしてきました。

ですから、例えばクラスの□□君や○○さんは韓国系の民族学校に進学すると聞いたり、奄美大島に親族がいるのだと知りましたが、何ということはなく、それよりもその生き方が羨(うらや)ましくなって、仲良かったり、けんかをしたりして過ごしていました――今でも友人として付き合いのある人もいれば、その後、縁遠くなった人もいます。

☆   ☆

 そのわたしが「日本人は繊細な感覚を大切にする」とか、「日本人は清潔好きだ」と聞かされても、何だか腑(ふ)に落ちません。なぜ、そんなことを言うのだろうと不思議な感覚を覚えてしまいます。「日本人は繊細な感覚を大切にする」というのも、「日本人は清潔好きだ」というのも、それはそれで大事なことなのですが、皆が皆、一律に「日本人は繊細な感覚を大切にする」とか「日本人は清潔好きだ」というのは間違っているのではないか。あの人やこの人や、そうでもない人を、わたしは知っていると思ってしまうのです(大阪人は「繊細な感覚がない」とか、「不潔だ」と言っているのではないですよ。大阪の商店街や路地はゴチャゴチャしているが、そのゴチャゴチャが、わたしは好きだと言いたいのです)。

 このわたしの感覚は、もともとの多文化の環境から生まれたものかもしれません。しかし、わたしのように大阪で育ったのではない人、つまり日本の多数者にとって、この感覚とは、どうも違っているらしいと、その事にようやく気が付きました。(見かけ上の)多数者は、多数者にとってだけ都合よく街作りを行い、社会作りを行っています。そのために「街」とか「社会」に居場所のなくなった人は、さまざまな事件を起こしている。しかし、(見かけ上の)多数者はそのことを見ないようにしている。そんなことに気が付いたのです。

 平田オリザさんの『新しい広場をつくる』 (1) という本を読んでみました。平田さんは図書館――生涯学習施設のひとつです――を例にあげて、社会的弱者にも居場所を提供するはずのコミュニティ・スペース、つまり「必要とする人は誰でもいられる場所」として、日本の図書館は十分に機能していないと述べています。

 ある時、中学生とホームレスが図書館に居合わせました。寒い時期だったために、中学生もホームレスも暖(だん)を求めて図書館に集まってきたのです。中学生は本を読む人の側(そば)ではしゃぎ回り、そのことをホームレスがたしなめます。ところが中学生はそのことを逆恨みし、「復讐」と称してホームレスを襲ったのです。二度、三度と襲撃は重なり、最後には仲間の高校生も加わって、ついにホームレスを殺してしまいます。この事件は新聞やテレビでも大きく取り上げられたので、憶えている方が多いでしょう。

 これは教育の問題なのでしょうか? 平田さんは、加害者となった中学生(と高校生)や被害者のホームレスが、安心できるコミュニティ・スペースを作ってこなかった街作りの問題だと言います。この場合、中学生(と高校生)やホームレスは、共に社会的弱者です。

 この本で平田さんが言っていることを引用しましょう。「これまでの日本社会は、『誰もが誰もを知っている共同体』を作ってきた。これは、農耕社会の宿痾(しゅくあ)と言っていいだろう。(中略)麦は家族経営でも収穫できるが、稲は村落共同体全体で取り組まないと収量が上がらないという宿命を背負っている。(そのため、地域は『小さくて強固な共同体』である必要がある。:三谷)/しかし、都市化が進み、この小さくて強固な共同体に限界が来ているとすれば、私たちは、この『誰もが誰もを知っている強固な共同体』を、少し広域に緩(ゆる)めつつ、『誰かが誰かを知っている穏やかな共同体』に編み変えていかなければならない。」(『新しい広場をつくる』の53ページ)

 平田さんは日本社会の特徴を「村落共同体のしきたり」に求めます。そこでは多文化が共生していく論理ではなく、異質なものを排除する論理が力を持っています。形だけは肥大して都市のようになったが、その実体は、地域が「小さくて強固な共同体」のままなのです。そこでは「暴力をふるう中学生は排除する」とか、「ホームレスは排除する」といった「排除の論理」だけの空間が出現しました。「暴力をふるう中学生は排除する」とか「ホームレスは排除する」というのは当たり前のことだと思うかもしれませんが、わたしは、そのこと自体を暴力的に感じます。「排除の論理」は社会の格差を無視した、きわめて乱暴な解決法だと思います。

 「排除の論理」は、何も彼ら/彼女らだけを排除するのではありません。社会的弱者になったが最後、わたしやあなたも、簡単に「排除」の対象になるのです。「排除の論理」は表向き、正義です。しかし、当然のことながら「排除」の対象になる人にとっては、正義でなどあるわけはありません。「誰もが誰もを知っている強固な共同体」であった水稲農耕社会に生きる人びとは、都市化によって息ができなくなる。「繊細な感覚の」「清潔な」だけの、殺伐とした世界が広がっていたのです。

 その解決策を、平田さんは「社会包摂(-ほうせつ)=social inclusion」に求めています。「ユニバーサル・ミュージアムをめざして21」に書いた「サラマンカ宣言があった!」 (2) の回の「インクルージブ教育」と同じ考え方です。

 「地域社会の崩壊や核家族化、そして長引く経済の停滞の結果、人間はあっけなく孤立化してしまう環境に生きざるを得なくなった。現代社会において孤立しがちな人間を、どうにかして社会につなぎ止めておこうというのが、「社会包摂(-ほうせつ)」的な政策だ。これは、排除(exclusion)の論理ではなく、人々を社会に包摂(inclusion)することによって、結果的に共同体全体のリスクとコストを低減していこうという考え方だ」(61ページ)というのです。この方策が、うまい解決策になるのではないかと言うことです。

☆   ☆

 平田オリザさんは、演劇という芸術の社会的な意味を探る中で、このような考え方に至りました。演劇は「地縁や血縁のように(身動きが取れないほど)熱いもの」でもないし、社会が営利(≒お金儲け)だけで動くというのでは、あまりにも冷たい。かといって、市場経済ともどうにか折り合いをつけないと、何事であれ現代社会で実現することは難しい。市場経済と折り合いをつけられる「新しい広場」として演劇があり、劇場がある。そして「街のそこかしこに」は「出会いの場=コミュニティスペース」(52ページ)が必要だと論じます。

 「演劇」と同じことは「科学」にも言えます。「科学」は直接的に社会の役に立つ(≒市場経済の商品になる)場合もありますが、ひとはくで話題になる「科学」では、直接、商品化はできない場合が多いのです――恐竜や照葉樹林からでも、何とか工夫すれば商品は作れますが、恐竜化石そのもの、照葉樹林という植生そのものが、コンビニで売っているような商品になるわけではありません。それでも博物館は必要です。なぜかと言えば、「博物館」という生涯学習施設では、何でも自分で興味を持った事を探れる場所だし、そこに集まる人びとに重要な「出会いの場」(=コミュニティ・スペース)を提供するからです。つまりユニバーサルな空間になるわけです。

 平田さんの議論にせよ、ユニバーサル・ミュージアムの議論にせよ、自由に集える場所は、基本的にお金になりません。そもそもコミュニティ・スペースは、地縁・血縁とは別物であり、市場経済にも馴染みにくいものです。しかし、「人間の孤立化」や「地域社会の崩壊」といった現代社会の弱点を防ぐためには、図書館や美術館、博物館といった生涯学習施設にユニバーサルな考え方、インクルージョンの考え方は、ぜひとも必要です。

 長く地縁と血縁のしがらみに縛り付けられていた日本列島に生きる人びとが、簡単に見知らぬよそ者を受け入れる余裕などはないと怒る人もいるでしょう。それでも社会的弱者がいる限りは、どうあってもユニバーサルな考え方、インクルージョンの考え方を受け入れなければなりません。そこには新しく受け入れる多文化であることの苦しみと寂しさがありそうです。その苦しみや寂しさは、新しいものを受け入れらきれないという感情から起こるのかもしれません。

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(1) 平田オリザさんの『新しい広場をつくる』(岩波書店、1,900円)
https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/9/0220790.html

(2) 「ユニバーサル・ミュージアムをめざして21」に書いた「サラマンカ宣言があった!」
http://www.hitohaku.jp/blog/2013/01/post_1680/

 

三谷 雅純(みたに まさずみ)
兵庫県立大学 自然・環境科学研究所
/人と自然の博物館

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