2021年2月アーカイブ
最近ひとはく収蔵のササ類標本から、タイプ標本やその他の重要標本の発見が相次いでいます。これは結構凄いことです。なぜかというと、ササ類の区別が出来る人は今の日本にはそういないからです。その貴重な人材が複数名、ひとはくの収蔵庫を訪れては次々に色んな発見をしてくださっています。
他の顕花植物と違い、ササ類は毎年同じ時期に花を咲かせることをしません。毎年咲かない上に互いに似通っているので、ササ類の同定には、葉や茎(=稈)等に生える毛の状態が重視されます。ですが「毛」なので、出始めの春先の頃はよくても、梅雨から夏へと季節が変わる毎に段々と抜け落ち、夏以降は元々無毛か毛が落ちてしまったのか、よくわからなくなります。また「毛」なので、個体により量の多少や変異はつきものです。自信をもって同定出来るようになるには、まず生きた状態のササ類を沢山観察することが必要だそうです(ササ類愛好家 M氏談)。恥ずかしながら、私はいまだに自信を持って鑑定が出来ませんが、、。
兵庫県には室井綽先生、岡村はた先生などササ類の研究で有名な方がおられ、先生方の採集されたササ標本がひとはくにあることはわかっていたのですが、私自身は横目で眺めるだけでした。当館のササ類標本を鑑定に来てくださった支倉千賀子さん(東京農大)が、タイプ標本等重要な標本を沢山発見されました。これからしばらくは、見つかったササ類の重要標本を紹介したいと思います。文章は、支倉他 2020. 兵庫県立人と自然の博物館植物標本庫(HYO)「頌栄コレクション」から見出された特筆すべきササ類標本(兵庫の植物 30号5‐32頁)を一部改変しています。
ヤマキタダケのアイソレクトタイプ(副選定基準標本)
Isolectotype of Arundinaria yamakitensis Makino in J. Jap. Bot. 3: 4 (1926).
ヤマキタダケは1926年に牧野富太郎により記載されたササ類で,原記載によれば,基準標本は相模・山北(現在の神奈川県山北町)で,牧野富太郎自身が1921年1月20日に採集したものとされています(Makino 1926).しかし,支倉さんらの調査によると,牧野は1921年11月20日には山北には行った記録はなく,さらに基準標本と目された標本に貼られたラベルの日付(1921年1月20日)も間違いで,状況証拠からそれらは1921年2月20日に採集されたものと推測されました(支倉・池田 2015).今年は2021年ですから、ちょうど100年前の今頃、牧野富太郎は山北町でこの標本を採っていたのです。
1921年2月20日(ラベル上は11月20日)に採集されたヤマキタダケの標本は,東京都立大学牧野標本館(MAK)から3枚,大阪市立自然史博物館の植物標本庫から2枚見いだされ,(支倉・池田2015)は牧野標本館の標本中の1点 (MAK-291809-2/2) をレクトタイプ(選定基準標本)に選定しました.
今回ひとはくから見つかったのは牧野標本館から頌栄短大に送られた交換標本で,MAKのヘッダのついたラベルに "Yamakita, Ashigarakami-gun, Kanagawa Pref. Date: Nov. 20, 1921 Coll.: Tomitaro MAKINO Det. M. Muramatsu (1996)" とタイプされ,"291809" の番号が振ってありました (HYO_C2-135054: Fig. 1).これは支倉・池田 (2015) で指定したレクトタイプの情報と一致し,この標本がヤマキタダケのレクトタイプの重複標本,すなわちアイソレクトタイプ(副選定基準標本)であると考えられました.
ちなみに,MAK の同定ラベルを用いて同定している "M. Muramatsu" は,元岡山大学農学部教授の村松幹夫博士のことで,1996年当時村松博士が牧野標本館のタケ・ササ類の標本整理にあたられていたそうです.また,"H. Okamura" による同定ラベルが貼付されていますが,これは標本が牧野標本館から頌栄短大に送られた後、岡村はた氏によって再同定されたもののようです.標本左上には支倉さんによる同定ラベルが貼られています。村松博士はヤダケ、岡村はた先生はスズダケと同定した標本でしたが、支倉さんによってヤマキタダケと決着がつきました。貼られたアノテーションの数からも、ササ類の分類の難しさを感じて頂けるのではないでしょうか。
(自然・環境評価研究部 高野温子)
酒瓶ラベルづくり をしました。
酒瓶はもちろん日本酒の入っているビンです。
そのラベルには、作り手の思いが込められています。
日本酒の原料は、お米。
そのお米をつくる田んぼには、昆虫がいたり・・・
そんなラベルを
みんな思い思いにハンコを押したり、文字をかいたり、色をぬってつくりました。
完成したら、酒瓶がたくさん並んだところで はかせからのクイズにも挑戦したよ!
とっても難しいクイズに正解者が出て、はかせもびっくり!!
日本酒豆知識では、子どもより大人が興味津々。
たのしいラベルづくりは、来週日曜日2/28にも行います。
ぜひ、ご参加ください!
フロアスタッフ一同 皆様のお越しをお待ちしています
フロアスタッフ せら ゆうこ
昨日までの寒さがウソのように、暖かな一日
少しずつ春の足音が聞こえてきました!
今日はフロアスタッフとあそぼう「恐竜のおひなさまカード」をおこないました
ひとはくのおひなさまはひとあじ違う!?
かっこいい恐竜で、とびだすポップアップカードを作りますよー!
女雛はタンバティタニス、男雛はティラノサウルス類
1億1000万年前はどんな生きものたちがいる世界だったのでしょう?
3階の「丹波の恐竜化石展示室」で知ることができるよ!
さぁ!作ってみよう!!
ジャジャーン!完成!!
ステキなおひなさまカードが出来上がったね♪
ご参加いただいたみなさま!ありがとうございました!!
このイベントは2/27(土)もおこないます
ぜひおこしください!
フロアスタッフ かどはま・にしぐち
兵庫県立人と自然の博物館(ひとはく)の恐竜タスクフォースを中心とした研究員が関わる講演会や展示、イベント、出版物、出演などについてお知らせいたします。お問い合わせ先について、別途表記のないものは当館となります。詳細は各URLでご確認ください。なお、今後の新型コロナウイルスの影響等によっては、各イベント等の開催について変更が生じる場合があります。その際は、当館ホームページ上でご案内申し上げます。この内容は当館の化石剖出と石割調査ボランティアの方々には、メールにてお送りしています。
<ひとはく主催の企画>
●はかせと学ぼう!「アンモナイト石けんをつくろう!」(佐藤研究員)
アンモナイトのシリコン型に石けん素材を流し込み、アンモナイト化石のレプリカを作製します。石けんが固まって完成するまでに約30分を要します。
日 時:令和3年2月23日(火)13:00、13:20、13:40、14:00、14:20、14:40の6回
場 所:兵庫県立人と自然の博物館4階オープン・ラボ
定 員:各回4名(家族単位)
参 加 費:300円
そ の 他:当日4階インフォメーションにて10:00より参加申込の受付を開始します。定員になり次第終了します。
https://www.hitohaku.jp/MusePub/eventdetail/?id=18096
●葉の気孔を顕微鏡で観察しよう(半田研究員)
葉の表面を顕微鏡で大きくして気孔を観察しよう。ボンドで型をとって調べます。
日 時:令和3年3月7日(日)①10:30~11:00 ②11:30~12:00 ③13:30~14:00
場 所:4階 実験セミナー室
定 員:各回4組
参 加 費:無料
対 象:小学3年~6年生限定
そ の 他:4階中セミナー室で、①と②は10時から、③は13時から受付開始、定員になり次第終了します。
https://www.hitohaku.jp/MusePub/eventdetail/?id=18876
●はかせと学ぼう!「化石を掘り出そう!」(久保田研究員)
ヘラやハケを使って、本物の化石を掘り出していきます。どんな化石が見つかるのかはお楽しみです。掘り出した化石はお持ち帰りできます。
日 時:令和3年3月13日(土)13:00、14:00、15:00の3回(所要時間:約40分間)
場 所:兵庫県立人と自然の博物館4階オープン・ラボ
対 象:小学生以上
定 員:6組(各回先着順)
参 加 費:500円
備 考:当日4階インフォメーションにて10:00より参加申込の受付を開始します。定員になり次第終了します。
https://www.hitohaku.jp/MusePub/eventdetail/?id=19066
●A37, A38化石発掘体験セミナー(恐竜技師チーム)
恐竜化石の周りの泥岩には、多くの化石が入っている可能性があります。発掘セミナーでは、石を細かく割って新たな化石を探し出します。
日 時:令和3年3月28日(日)10:30~11:30、14:00~15:00
場 所:兵庫県立人と自然の博物館外 恐竜ラボ
対 象:小学1年生~大人
定 員:10名
参 加 費:800円
そ の 他:コロナウイルス感染症予防対策のため、対象年齢は小学1年生以上に変更します。ただしひとりで作業のできる方に限ります。必ず参加者全員の詳細をご明記ください。※発見された化石は持ち帰ることはできません。※気象状況により中止の場合あり。
https://www.hitohaku.jp/MusePub/seminar/?id=2020A37
https://www.hitohaku.jp/MusePub/seminar/?id=2020A38
次号は令和3年3月16日(火)に発行予定です。
※都合により前後する場合があります。予めご了承ください。
恐竜タスクフォース 久保田克博昨日に続き、本日も フロアスタッフとあそぼう「クマのぼうしをつくろう!」を行いました。
目を描き、耳を付けて、それぞれのオリジナリティを存分に発揮したクマのぼうしが完成しました♪
早速ぼうしを被って、ツキノワグマのパネルで記念撮影!
今後もフロアスタッフのイベントが目白押しです!
是非、ご来館ください!
フロアスタッフ はなだ
2月13日(土)のフロアスタッフとあそぼう「クマのぼうしをつくろう!」を行いました。
自分で目を書いたり、耳の位置を考えながら貼ったり、ひとりひとり違う表情で個性がキラリ☆
完成したぼうしをかぶってクマになりきりましょう♪
メンテナンス休館後、初めての「フロアスタッフとあそぼう」。
たくさんのお客様に参加いただきました。
完成後はツキノワグマの顔出しパネルからお顔を出して記念撮影!
はい、ポーズ!!
明日もフロアスタッフとあそぼう「クマのぼうしをつくろう」を行います♪
スタッフみんなでお待ちしています♪
(フロアスタッフ つくし かおり ふくもと ななみ)
ひとはくは今月から無事開館!みなさんにお会いできてうれしい限りです(^^)
本日は2月のイベントのご案内ですよ~!
13(土)、14(日)「クマのぼうしをつくろう!」
こちらは去年も行った人気イベント!
かわいいクマの帽子を被ってツキノワグマになりきっちゃいましょう☆
20(土)、27(土)「恐竜のおひなさまカード」
恐竜に色を塗って、おひな様を作ります!
ひとはくオリジナルおひな様をぜひ作ってみませんか?
21(日)、28(日)「酒瓶のラベルづくり」
ハンコやペンでオリジナルのラベルづくり!
世界でひとつのオリジナルラベルができますよ♪
受付方法などは各イベントページをご確認ください!
イベントはもちろん、広い博物館でゆったりとした時間を過ごしませんか?
みなさんのご来館をお待ちしております(^^)
フロアスタッフ きただに さやの
2/11(木・祝)のワークショップは「ひとはくストラップづくり」でした。
恐竜やちょうちょなど好きな生き物の絵をえらんで色をぬり、オリジナルストラップをつくります。
とてもステキなストラップができましたね♪
ご参加ありがとうございました。
フロアスタッフまつだ
キカイタツナミソウ(ヒメタツナミソウ)Scutellaria kikai-insularis Hatus. ex T.Yamaz. アイソタイプ
キカイタツナミソウは初島住彦先生(1906‐2008)により、1971年に出版された琉球植物誌の中で新種として発表されましたが、タイプ標本の引用がなかったため、残念ながら初島先生がつけられたS.kikai-insularisという名は、有効に発表された学名になっていませんでした。1993年に山崎敬先生がFlora of Japanの中で東大総合博物館収蔵の清水孝浩氏採集の標本をホロタイプとして引用してキカイタツナミソウの記載を行い、初めて有効な学名として認められました。学名は正式には属名+種小名+著者名(=その分類群の名前を正式に発表した人の名前)+学名が発表された雑誌や本名、の順に並べます。そうすることで、その学名が何時、誰によって、何処に発表されたかがわかります。キカイタツナミソウの場合は、Scutellaria kikai-insularisの後に名前を考案した初島先生の名前、exの後ろに学名を正式に発表した山崎先生の名前がついています。清水孝浩氏は兵庫県在住の在野の植物研究家で、日ごろ頌栄短大に標本を送られていました。そのなかにキカイタツナミソウの標本が2枚あったため、1枚は重複標本ということで頌栄短大から東大に送られ、ホロタイプに指定されたわけです。当館の当該標本はアイソタイプということになります。
画像をクリックすると拡大されます (自然・環境評価研究部 高野温子)
サンインヒエスゲC arex jubozanensis J.Oda & A. Tanaka(パラタイプ)
今回ご紹介するのは、2004年に発表されたサンインヒエスゲというカヤツリグサ科スゲ属ヒエスゲ節に属する植物のパラタイプ標本です。学名の種小名jubozanensisはホロタイプの産地である鳥取県の鷲峰山(じゅぼうざん)にちなみます。
サンインヒエスゲ記載論文で引用されパラタイプとなった細見末男氏の標本は、当初ホソバカンスゲと認識されて収蔵庫に納められていました。2003年1月、ひとはくに新種発表のための植物標本調査に来られた織田二郎氏が、ホソバカンスゲ標本の束に入っていたこの標本を発表準備中のサンインヒエスゲと認識し、アノテーションスリップ(the annotation slip)を添付されました。アノテーションスリップとは、標本ラベルの学名が誤っていると認識した場合に、正しい学名と記入者の名前と日付を書いて貼り付ける小さなラベルのことです。左の写真の標本では標本ラベルのすぐ上に貼られています。
織田氏が貼られたスリップは、厳密なことを言えば貼った時点においては論文発表前なので正式な学名ではなく裸名ですが(論文が審査されている途中で学名を変更することは時々あります)、本ケースにおいてはこの学名で論文として受理され正式な学名になったので、結果オーライといったところでしょうか。新しい分類群を発表する際には、出来るだけ多くの収蔵庫で標本を見て新種の標本が埋もれていないかを探し、分布域の推定を行います。織田氏らは新種発表の準備のため京大(KYO)、金沢大(KANA)、それにひとはくに足を運んで標本調査を行い、サンインヒエスゲの分布が若狭湾を挟んだ日本海沿岸地域であることを確認し、それら標本庫で発見したサンインヒエスゲ標本をパラタイプとして引用した。ということになります。
サンインヒエスゲの記載論文(Oda et al. 2003 Acta Phytotax.Geobot. 54:127-135)の一部。 赤丸で囲った部分が、パラタイプにあたる標本の引用部分。赤下線部がひとはく収蔵の細見末男氏の標本。
植物の名前は、採集した時にはきちんと分からないことがままあります。ひょっとして間違っているかも、、と思いつつも、とりあえず「この植物名にしておいて、そんなに大間違いじゃないだろう」という名前でラベルを作成してしまうことも(大きな声では言えませんが)あります。そうしないといつまでたっても標本整理が終わりませんし、標本庫に配架されなければ他の人の目に触れる機会も失うからです。標本庫にある標本の名前が合っている(=正しく同定されている)確率は実際は50パーセント程という報告や、生物の新種の半分以上は野外からではなく標本庫から見つかっている。という報告もあるくらいです。標本全部が名無しの権兵衛では博物館としても困るのですが、近いと思しき分類群の名前をつけておけば、将来その分類群の専門家がやってきて調査をしたときに、今回のように新種として認識されタイプ標本になる可能性もなくはないのです。
(自然・環境評価研究部 高野温子)