自然史レガシー継承・発信実行委員会では、平成30年1月13日(土)~ 28日(日)まで、みやのまえ文化の郷伊丹市立伊丹郷町館にて「日本酒の自然誌 Where culture meets nature~日本文化を育んだ自然~」を開催しました。
会期中の1月27日(土)、関連セミナーとして、シンポジウム「まちかど博物館のつくりかた」を行いました。本シンポジウムでは、歴史的建造物を舞台とした「まちかど博物館」をしつらえ、日本の自然誌と文化の持つ魅力をより多くの人に知っていただくポイントについて、先進事例に学ぶとともに意見交換を行って、課題とノウハウを共有しました。そのようすをご覧ください。
まず、人と自然の博物館 中瀬館長よりご挨拶させていただいたのち、三橋弘宗主任研究員より、「地域の歴史的建造物を博物館に」という趣旨説明を行いました。
事例報告(13:25-16:05)では多様な例をご提示いただきました。
◆「鳴く虫と郷町」でつながる地域と博物館 伊丹市昆虫館副館長 坂本昇 氏
2006年から12年間続けて来られた「鳴く虫と郷町」のイベントを紹介しながら、地域の人たちが活躍する舞台づくりについてお話しくださいました。展示だけでなく会場の良さを再認識できるイベントづくりについて、事例をお話しくださいました。
◆時空の住処「岐阜アートフォーラム」~息づく空間への挑戦~ 各務原市中央ライフデザインセンター 藤田敦子 氏
それまで誰も考えなかった「寺院空間における美術文化の創出と発信」を10年間継続されてきた事例についてお話しくださいました。誰もが区別なく時間と空間を共有し、表現者・鑑賞者の区別なく一緒にひとつの創出活動に向かうことを目指して、それまでの既成概念に捉われない美術作品の展示方法や音楽芸術とのコラボレーションの事例についてお話しくださいました。
◆街を使ってアート展示をする意義 KYOTOGRAPHIE共同代表 仲西祐介 氏
2011年の東日本大震災を受けて新しい芸術表現の場"KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭"を創設された中西祐介氏が、洋館や町屋に写真作品をどのようにインテグレートするか、アート作品を美術館から持ち出して町の中で見せるのは何故か、などについてお話しくださいました。町おこしでアート作品やアーティストが使われることも多いが、「アーティストの疲弊と少しの町おこし」が残ることが最も悪い例として、ユニークベニューを使うことで、新しい写真=芸術の表現を形づくる過程についてお話し下さいました。
(左)2017年のテーマ"LOVE" (右)ゴリラの巨大な写真作品を前にした霊長類学者山極壽一氏と狂言師茂山千三郎氏による対談について説明
◆お寺から始める人づくり、地域づくり~アイドルライブからお寺葬まで~ 浄土宗龍岸寺住職 池口龍法 氏
龍岸寺(京都市下京区)の住職として、"てら*ぱるむす"というアイドルグループや「フリースタイルな僧侶たち」というフリーペーパーの発刊に関わっておられるという非常に柔軟な「入口」のお話に始まり、「お寺の本堂に入ってもらうことだけでも大きな宗教体験である」と考え、「大勢の人たちが集える場がお寺であるべき」、「宗派を超えて今、人に必要なものは何だろうと考えている」など、深淵なことがらについてもお話し下さいました。「入口は柔らかいのですが、やってる内容は仏教的にも難しいことをやっているんです」という言葉が印象に残りました。
(左)浄土系アイドルてら*ぱるむす (右)龍岸寺門前に掲げるお経と現代的な解釈を、見た人がツィート
事例報告をいただいたことをもとに質問と意見交換を行いました。短時間ではありましたが、歴史的建造物を借用する場合のハードルの越え方など実務的なことから、美術館や博物館でなく「まちなか」に展示を設けるのは「空間の力を借りること」という「まちかど博物館」のテーマに至ることについても意見交換が行われました。
事例報告で提示された事例や、意見交換で出された意見は多様なものです。しかし、そんな多様性であったり、彩り豊かに生活を潤すものがすなわち文化であり、自然科学をも育むものと感じさせられました。自然史レガシー継承・発信実行委員会によるによる企画展は28日で終了しましたが、このシンポジウムの趣旨が生かされ地域が豊かに創生されていく期待を感じました。
生涯学習課 竹中敏浩