高校の生物の教科書には生態学のテーマがいくつか取り上げられています。食物連鎖、食う食われるの関係、群系分布(植生分布)、垂直分布、個体群、植生遷移などです。その中でも長い年月の経過によって溶岩地帯のような裸地でもいくつかの群落を経て最終段階の極相に至るという植生遷移(一次遷移)は動かないと思われている植物、植物群落を動的にとらえたテーマとしてたいへんおもしろく、教科書の題材としても適切と考えられます。
しかし、裸地から極相に至るという遷移の系列や遷移に要する年数にはいつくかの学説があり、各々の学説に基づく教科書ごとに記述内容に大きな違いが認められ、混乱しています。
今回、桜島や伊豆諸島などの溶岩地帯の植生遷移について、地域間比較という視点をもとに再調査し、分析した結果、裸地から始まる植生遷移系列は地衣・コケ群落、草本群落、陽樹群落(クロマツ-ヤシャブシ群落)、タブ群落を経てシイ・カシ群落の極相であること、その遷移に要する時間としては400-600年であることが明らかとなりました。遷移系列における各段階の群落の主要散布形をみると前期段階では種子が風によって運ばれる風散布型、中期段階では種子が鳥によって運ばれる鳥散布型、極相では散布距離の短い重力散布形と変化していることもわかりました。このような遷移系列、遷移年数は国内の照葉樹林帯全域の一次遷移に該当します。これらの研究成果を論文としてまとめ、植生学会誌に投稿したところ、論文は受理され、2013年に印刷、発行されました。
昭和溶岩 大正溶岩
服部保(自然・環境再生研究部)