言語音の認識が難しい高次脳機能障がい者が理解しやすい災害放送に関する論文の出版について
1 内容紹介
緊急災害放送は全ての人が理解できることが大切です。しかし高次脳機能障がいは、音は聞こえても認識できないことがあります。そこで高次脳機能障がい者にどんな放送が理解しやすいのかを調べるために、聴覚実験を受けてもらいました。実験に使った設問は「棒読み」と「リズムを強調した読み」、「棒読み」と「棒読み」にチャイムを付加した放送などの、それぞれどちらが理解しやすいかでした。警報にもよりましたが、女性アナウンサーがリズムを強調した方が理解しやすく、高次脳機能障がい者は特定のチャイムは注意喚起しないようです。
2 執筆者
三谷雅純 准教授・主任研究員(兵庫県立大学 自然・環境科学研究所・人と自然の博物館)
3 論文掲載誌
福祉のまちづくり研究 20巻、13-23、2018(福祉のまちづくり学会誌)
4 論文標題
日本文:言語音の認識が難しい高次脳機能障がい者が理解しやすい災害放送とは?-肉声への非言語情報の付加に注目して-
英文:What kind of emergency broadcastings on disasters are easier for persons with neuropsychological impairments who have difficulty with the spoken language to understand -Attention to presence/absence of nonverbal information in real voice-
「実験1-1:棒読み」と「実験1-2:リズムを強調した読み」の理解しやすさを比較した結果です。障がい者の自覚がない人、軽度の高次脳機能障がい者、中・重度の高次脳機能障がい者のそれぞれが、発話者(女性B、女性C、男性B、男性C)の異なる同じアナウンスを聞いた時の理解しやすいと回答した人数を表しています。 *:< .01, **:< .0.5。棒グラフは、■が「棒読みの方が理解しやすかった」、□が「リズムを強調した読みの方が理解しやすかった」と回答した人数です。
実験2:「棒読み」と「棒読みにチャイムを付加した読み」の理解しやすさを比較した結果です。棒グラフは、■が「棒読みの方が理解しやすかった」、□が「棒読みにチャイムを付加した読みの方が理解しやすかった」と回答した、それぞれの人数を表します。
5 研究成果の特筆すべき点
高次脳機能障がい者は思うよりも多くいるにもかかわらず、脳内の高次機能が社会の多数者と異なるため、どのように接するべきかが広まっていません。とくに聞くことがにがてな高次脳機能障がい者に対しては、緊急放送をどう伝えるかが定まっていません。
高次脳機能障がいとひとくくりにいっても、障害を受けた脳の部位、障がいの重い/軽い、年齢など、その実態はさまざまです。
兵庫県域で活動する、失語症者を含む高次脳機能障がい者32名と、対照群として障がいの自覚のない人20名の、計52名が参加して下さいました。
どのように放送することが高次脳機能障がい者に理解しやすい放送になるかを、この聴覚実験の結果から考えてみました。緊急災害放送は男性アナウンサーが、長時間、担当し続ける事が多いのですが、今後は、緊急災害放送において男女が交互にアナウンスする工夫が必要です。
今回の実験ではNHKの緊急地震速報警戒音を使用しましたが、この警報音(チャイム)では高次脳機能障がい者の注意喚起ができませんでした。今後はチャイムの種類を増やして注意喚起のようすを調べることが重要です。さらに音だけでなく視覚に訴える、あるいは振動を利用する新たなアラームの開発が必要であると考えます。
簡単な解説はここにも掲載しています
>>ひとはく研究員の発表論文紹介(2018年)
兵庫県立大学自然・環境科学研究所のWebページでも紹介しています
>>研究報告「言語音の認識が難しい高次脳機能障がい者に適した緊急災害放送」を探る研究をしました。
※他の研究員の論文もどうぞご覧ください ひとはくの研究とは