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海外の調査から・3

オーストラリアの博物館を訪ねて

主任指導主事  中瀬 勲



 景観についても、博物館についても、「強度のカルチャーショックを受けた!」というのが、今回のオーストラリア訪問での感想である。
 古くからの友人であるロイヤル・メルボルン工科大学のJ・シナトラ教授と久々に再会し、メルボルンの下町を歩いた後、研究室で彼の学生を交えて都市景観について話した。欧米やアジア諸国の景観に慣れ親しんだ筆者には、ヨーロッパ風の多種多様な建築様式が織りなすモザイクの景観は強烈で新鮮な印象となった。
 オーストラリアの都市では、二十一世紀へ向けての新たな文化や環境の創造を、多様な人々、文化、景観などを融合する実験として試みているものと感じた。それも地域性を重視して様々な方向を模索しているようである。このことは、文化、環境のみならず、博物館についても同様ではないだろうか。
 「自然を理解し、自然を保護・保全し、新しい文化や環境を創造する」ための地域文化の担い手として博物館が、社会的に明確に位置づけられている。これには歴史は比較的新しいが、多様な人々、多様な文化、そして貴重な自然が豊富に存在するというオーストラリアの社会・自然の環境特性が関係しているのであろう。
 同時に、博物館側からの社会的貢献も評価されてのことであろう。例えば、パースのウェスタン・オーストラリアン博物館を拠点にして、西オーストラリア州の自然史、海洋、歴史などの諸博物館がネットワーク化され有機的に運営されている。そこでは博物館での研究を基礎にした展示や普及教育の活動が、プロジェクト主義のもとで推進されているとのことであった。また、博物館活動の一層の活性化のため、広報、市場調査の部門が新設され活動を開始していた。この一環として、個人、家族、会社などからの寄付で新設展示を充実させようとするプログラムも始まっていた。
 普及教育では、環境教育を意図した様々な試みが進行中である。館内での普及教育より、むしろ館外での活動を重視しているようであった。例えば、学校、病院、テレビ局などに資料を貸し出す「ムービング・ミュージアム」、研究者やボランティアの協力を得て地域の自然や歴史を学ぶ「アウトドア・ミュージアム」などがある。これらの企画・立案、実施には、学校から派遣された教師が中心的役割をはたしていた。研究者と協力して、パンフレットづくり、諸学校との連絡調整、さらに小・中学校の子供たちを引率する先生へのレクチャーと多岐にわたる活動に従事していた。
 この延長線上に、友の会が位置づけられている。個人、家族、会社(シンガポールでは学校も対象)など様々な会員制度を用意し、一般的な普及教育書から高度な学術書までの出版などを手掛けていた。ミュージアムショップやレストランなども集客の施設として重視していた。
 オーストラリアン博物館のショップではクリスマスプレゼントのための品物をそろえていたのには驚くと同時に、博物館と社会との関係の深さを確認できた。
 最後になったが、このような貴重な機会を与えて頂いた関係各位、ならびに訪問先で様々のお世話を頂いた各位に、紙面をかりて深甚の謝意を表明したい。
<写真:パースのウェスタン・オーストラリアン博物館の外観>

期間:1991.11.21〜12.8
訪問都市(機関)
Wellington(ニュージーランド国立博物館、国立博物館設立準備室、マリーン・タイム博物館、植物園)、Sydney(オーストラリアン博物館)、Canberra(都市計画資料館、国立サイエンス・センター、戦争博物館)、Melbourne(ビクトリア博物館、ロイヤル・メルボルン工科大学、美術館、サイエンス・センター、植物園、動物園)、Perth(ウェスタン・オーストラリアン博物館、キングス・クロス公園)、Fremantle(マリーン・タイム博物館)、Singapore(サイエンス・センター、動物園、植物園)

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Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/03/27