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◇  阪神・淡路大震災 緊急報告

 本号では、地球科学研究部が行っている地震関連調査のうち、有馬−高槻構造線 西端域の被災状況を取り急ぎまとめましたので、その概要を紹介します。有馬−高 槻構造線とは裏六甲の凹地から宝塚を経由し、大阪−京都府境に至る北摂山地南縁 沿いにほぼ東西45kmを走る7本の活断層の総称で、近畿日本最大規模の活断層で すが、歴史時代における大地震の記録はありません。結論を先にいうと、今回の地 震でこの地域の構造線の活動は見られませんでしたが、活断層研究者が注目してい るように今後とも監視体制を強化していく必要があります。 【神戸電鉄三田線大池−花山間】  神戸電鉄東側の切り通しが並走する道路とともに30〜35mにわたって崩壊し 、崩れ落ちたがれきは崖側の上り車線を被った。崩壊箇所は神戸層群を被う崩壊性 の砂礫層から成る緩傾斜面に位置する。この箇所は以前水害による土砂崩れをおこ したらしい。改修後、今回の地震で新たに崩壊したものと思われる。 【神戸電鉄有馬口−有馬温泉間】  少なくとも7箇所で地震動による線路面の陥没とレ−ルの曲がりが観察された。 最大陥没部は延長50mで、付近には小規模な地割れが見られる。被害箇所は鉄道 開設時に谷の出口を盛った部分か、崩壊土砂からなる斜面を切った部分に集中して いる。両駅中間点付近の顕著な断層破砕帯からなる大露頭での落石・斜面崩壊は認 められない。有馬温泉寄りトンネル内の亀裂はトンネル入り口の壁に入っているひ び割れと同様に今回の地震動に伴いできたものとは思えない。 写真1:芦有道路 有馬ゲート 【有馬温泉】  有馬温泉駅付近では古い木造の温泉旅館や一般家屋が目立つ。築年数が古いもの でも外見上の被災度が小さいものもある一方、高層温泉ホテルのあるものでは路面 に大小無数のひび割れが走り、ホテルそのものにも大きな被害がみられる。被災度 の大きいホテルのあるものは斜面を切り割りし、削った土砂を凹部に埋め、一見自 然斜面のように思われる急傾斜地に位置している。観察した限りでは、全壊家屋は 築年数の浅い鉄筋コンクリ−ト製の1戸のみである。この家は急傾斜する小さな谷 筋を埋めた新期崩壊堆積物の上に建っており、すぐ南側の基盤岩(有馬層群)上の 古い木造家屋との被災度の違いは対照的である。芦有道路のゲ−ト付近では、一般 的な傾向として土砂を盛った部分の路肩寄りや側溝沿いなど人工構造物沿いで大き な亀裂が目立つ。有馬温泉駅西方の道路に面した急崖では2、3箇所小規模な斜面 崩壊が見られ、路面に落石している。 【白水峡霊園】  完全にマサ化したか、あるいはマサ化の進んだ風化花崗岩上に位置する整備の行 き届いた新しい霊園であるが、墓石の倒壊率には極めて明瞭な地域差が見られる。 白水峡に面した霊園南端部の斜面にひな壇状に作られた区画では被災率100%に 対し、霊園北東端の平坦面上の区画では被災率約5〜20%であった。前者は土砂 を盛った部分、後者は尾根部を切った所に位置する。尾根部を切った土砂を効率よ く処分するため霊園南側の窪地に運び、ひな壇状にしたという。ひな壇状では地割 れが特に目立ち、最大のものは落差25cmに達する。墓石の転倒方向やズレの方向 からこの地域は地震動により水平成分では南東に動いたと考えられる。 写真2ー1:白水峡霊園 尾根部を削った区画 写真2ー2:白水峡霊園 斜面を土砂で盛った区画 【蓬莱峡】  蓬莱峡や座頭谷周辺では、白水峡と同様に、地面がむき出しになったマサ化の進 んだ風化花崗岩とその上に重なる高位段丘礫層からなり、いまにも崩れだしそうな 不安定な急崖をなしている。随所にみられる落石・斜面崩壊は白水峡と同様に今回 の地震動によるものではなく、自然落下崩壊によると考えられる。  以上を総合すると、この地域でみられる被災箇所・被災度の顕著な違いは今回の 地震が天災であると同時に人災の感がしないでもない。被災度の大きい箇所はすべ て人手が加わったところに集中していることから今後の土地開発・宅地造成などの 際に留意すべきである。     (地球科学研究部 小林 文夫)

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Copyright(C) 1995, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1995/12/18