まえに戻る 目次へ つぎへ進む
◇ バランスの世界 −生態系−
●生態系?
最近、特に環境問題が叫ばれるようになってから、「生態系」という用語を、
本で見たり、また耳にすることが多くなってきました。この「生態系
(エコ システム)」はイギリスの植物生態学者A.G.タンスレイによって1935
年に初めて用いられた語で、「あるまとまった地域の非生物的環境と生物群集
との総合された物質系」ということができます。
●自然システム
非生物的環境とは、生物をとりまくいわゆる大気、陸、海、太陽光線などのあら
ゆる無機的物質のことです。この非生物的環境も一つの系と考えることができ、
これを自然システムと呼んでいます。ここで非生物的環境の中で重要な水を取り
上げてみましょう。地球という自然システム内での水の循環を下図に示してみま
した。海から順に追って行くと、水は太陽熱によって水蒸気となり、雲として運
ばれ雨となって陸地に降りそそぎます(しかし多くは直接海に降ってしまいま
す)。その水はいろいろとより道をしながら集まっていくつもの流れとなり、
上流から下流へ、最後には海に流れ込んでいきます。このように、地球全体を
一つの系としてみると、水は水圏→大気圏→地圏→水圏とめぐり回っていること
がよくわかります。
図 地球の水の循環(山本 1987)
●生物システム
一方生物群集は、有機物を生産する緑色植物などの生産者、それを食べる動物
などの消費者、そして植物や動物の遺体を分解して無機化し植物に還元する
微生物などの分解者、の3要素にわけることができ、これらは互いに影響し
あい一つの系をなしています。これを生物システムと呼んでいます。
これら自然システムと生物システムは、複雑に絡み合いながらバランスを保
ちつつ、一つのまとまりをなし、物質やエネルギーがその中でめぐり回って
いるのです。
●バランスをくずしたヒト
ところが、生物システムの一員であったヒトが便利さ・目先の経済性のため
に開発という名のもとに自然を都合のいいものへと改変し、生態系のバランス
をくずそうとしています。このような話のときによくでてくるのは、プラス
チック類の例です。大変便利なプラスチック製品は、もともとの原料は生物に
由来しますが、自然の分解者の能力をはるかに超えた人工的につくられたもの
なのです。したがって自然の中に戻してもなかなか分解されず、原形をとどめ
たまま、生態系の中に取り込まれません。
●自然と長くつきあうには?
人工的につくられた環境あるいは物質については、その環境内で完結する
システムづくりあるいは人工的な処理が必要です。つまり、人工物は自然の
バランスをくずさない程度の量や質のものでない限り、自然のシステムの中に
“戻さない”ということです。これが自然と長くつきあうためのコツだと
思います。近ごろ、よく取り上げられる空き缶やプラスチックなどのリサイク
ル(再利用)は自然の中に“戻さない”一例といえます。また、最近では
プラスチックの代用品として微生物によって分解されやすい素材でつくられた
製品なども開発されているようです。
自然とともに生きるということは、自然のしくみを調べ理解するよう心がけて
行くことが、まず第一に大切なことなのでしょう。
(生物資源研究部 小舘誓治)
まえに戻る 目次へ つぎへ進む
Copyright(C) 1995, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1995/12/18