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ニシキハギの一種に止まっている (矢印)ハギルリオトシブミ
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毎年5月にオトシブミの観察会をやっている。博物館のまわり、深田公園を一時間くらい歩いてオトシブミを探そうというものだ。成虫だけでなく揺籃(成虫が葉を巻いて産卵したもの)も見つかる。年によって見られる種は変る。オトシブミ類とチョッキリ類あわせて、揺籃だけの発見も含めて5〜6種は見ることができる。その中でほぼ定番となっているのがハギルリオトシブミだ。
ハギルリオトシブミは体長4ミリほどの瑠璃色のオトシブミである。深田公園にはハギ類が多く、この虫も安定して生息している。小さいのでそのつもりで見ないと、葉の上の黒い粒でしかない。このオトシブミはハギの葉を短冊状に切ってぶら下げ、産卵して下から巻き上げていく。円筒形の揺籃を一つ作りあげるのに一時間はかかる。とても全工程を観察するわけにはいかない。しかし多くの個体が作業してくれているので、同時に様々な段階を見ることができ、工程の全容をを理解できるのだ。
ただの黒い粒も虫眼鏡でのぞくとかなり綺麗な虫である。全体が深いブルーメタリックで、緑がかったものや紫色のものもいる。これと近い種類にカシルリオトシブミという種がいて、こちらは完全に美麗虫である。翅鞘(ハネ)は青く、前胸の部分が金色〜真鍮色に輝いている。その部分は緩い起伏の上に渦状に彫刻された凝った形状になっている。肉眼でも輝いて見え、凝視すれば芸術的造形も肉眼で鑑賞できる。
カシルリオトシブミは名前とは裏腹にイタドリによくいる。深田公園ではハギルリよりも少ないが、他の場所では多い。イタドリ自体がちょっとした河原や空き地によく生えており、イタドの群落にはたいていこの虫がいる。葉の縁が細く切りとられていたらこの虫の仕業である。短冊がぶらさがっていたらまさに作業中だ。その気で探せば簡単に見つかる虫である。ド普通種なのである。そんな虫がよく見るとピカピカで、巧妙な作業をおこなっている。ただ私達は普段の生活でそれに気づかないのだ。
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カシルリオトシブミ |
「自然観察」というと大げさである。そもそも本物の「自然」にたどり着くまでが大変だし「観察」などというと難しげだ。それより身近な世界を探検してみよう。「プチ探検」だ。立ち止まって視線を低くし、一分間まわりを眺め、小さな生き物に目をとめる。よく見て考える。これだけで探検できる。ダンゴムシの死骸でも十分な成果であり課題である、「どこから来たのか?」と。花にアブラムシがいてアリやテントウがいる。教科書どうりの生態系だ。もちろんそれは自然ではない。植栽された国籍不明の植物に、たまたま在来の虫がとりついただけだ。それでも自然を構成する歯車の一つが見え、動きが見えるはずだ。うまく噛み合ってなかったり、間違った部品がはさまっているかもしれない。それももちろん考察に値するだろう。
(昆虫共生系研究グループ 沢田佳久)
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Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 2003/11/14