杉原川での水温調査(加美町) |
民と官とで構成される従来からの「公」の概念が、変容し、拡大している時期である。里山や棚田などの自然や環境のみならず、教育や福祉などの多くの分野で、市民、団体、NPO、NGO、企業、行政など、様々な主体の「参画と協働」を通じた「新しい公」の議論が県下各地で進んでいる。兵庫県の長期ビジョンでは、望ましい社会像の一つとして「環境優先社会」が位置づけられているように、地域から地球スケールの自然や環境の諸課題に多様な主体が協働して取り組む時代に来ている。折しも、2002年12月11日に公布された「自然再生推進法」では「自然再生」を「過去に損なわれた生態系その他の自然環境を取り戻すことを目的として、関係行政機関、関係地方公共団体、地域住民、特定非営利活動団体(NPO)、専門家等の地域の多様な主体が参加して、自然環境の保全、再生、創出等をすること」と位置づけている。 「人と自然の博物館の新展開」としてまとめられた冊子「共生博物学」の「はじめに」で、河合雅雄館長は「 枚挙の学としての博物学から人と自然の総合的理解をめざす共生博物学へ」の中で「共生博物学」の考え方を提唱している。その中で、「人と自然の調和ある共生関係を創出することが、今緊急に求められている課題である。生物が長い進化の過程の中でつくりあげた共生系の知恵に学び、人と自然の共生関係の構築に資するべきであろう」と指摘している。「統合」まさに「エコロジーの思想」「共生の思想」に基づいた「自然再生」への方向を示唆しているものであると思う。筆者の恩師であるカリフォルニア大学名誉教授の故ガレット・エクボ氏は、形式主義、様式主義、権威主義、折衷主義を排除しつつ、伝統からインスピレーションを得て、新しいし社会の新しい環境形成を進めてきた。20世紀のランドスケープのモダニズム運動を指導し、成熟に導いたのである。 新世紀当初に当たり、われわれは自然や環境などの「草の根」を再確認しようとする「時代の偉大な変革の時期」にさしかかっているのではないだろうか。例えば、「川の体温を測る(杉原川の健康診断)」(ひとはくキャラバン北播磨リサーチプロジェクト)では、親子による住民参加で加古川上流域の杉原川での水温などの一斉調査が、2002年8月18日午後2時から国内初の試みとしてなされた。結果は、地図化され、地域住民と共に河川の状況や生きものの分布について議論が進められた。この「キャラバン事業」のみならず「ひとはくフェスティバル」や様々な事業で、地域の人々との参画と協働の事業が、ひとはく館員、NPO人と自然の会などの創意と工夫を通じて実施されてきている。まさに、新世紀博物館の草の根活動が、地域の人々と共に学ぶ人材育成への支援、地域の人々が主体的に取り組む組織づくりの支援などとして、その活動が始まりだしているものと予感しているのは筆者だけであろうか。
(副館長 中瀬 勲)
Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 2003/5/1