虫はなぜ灯火に集まるのか?
〜3F 森と里「灯火に集まる昆虫」の展示から〜
「飛んで火に入る夏の虫」といわれるように、虫は灯りに向かって飛んで来ます。家の窓から蛾が入って来て大騒ぎになったりもします。また、調査のために虫を採るときにも灯りで呼び寄せることがあり、展示してあるのは、その様子です。では、なぜ虫は明かりに集まるのでしょう?
「光が好き」というのなら、わざわざ夜に活動することはないし、「光のほうに進むのだ」というなら、灯りのない所の虫は月に向かって飛んで行ってしまうことになります。そうではなく、虫が灯りに集まる原因は、下のように考えられています。
虫が遠くへ飛んで移動したくても風や障害物のために進む方向が変わってしまう事があります。一定の方向へ進まないと、出発地の近くをうろうろするだけです。一定の方向に進むためにはまわりを見て方向を修正しながら飛ぶことになります。昼なら周囲はよく見え、いろいろと目印になりますが、夜は目印になるものがほとんどなく、月だけです。月を頼りに夜の虫は飛びます。
月は遠くにあるので、いくら飛んでも同じ方向に見え続けます。わたし達がまっすぐ走っている電車から月を見るのと同じです(1)。近くの建物や向こうの山はどんどん後ろに流れて行きますが、月はずっと同じ方向に見えますね。
虫も月が同じ方向に見え続けるよう調整しながら飛びます。夜に活動する虫にとって、まっすぐどんどん進む方法はこれなのです(2)。長い昆虫の歴史で、ずっとそれでうまく行きました。夜には月以外に明るいものがなかったからです。
ところが最近、人間が灯りをともすようになりました。月の光は平行ですが灯火の光は放射状です(3)。これを頼りに、同じ方向に灯りが見え続けるよう飛んでいると、らせんを描いて灯りへ近づいていくことになります(4)。こうして虫は灯火に集まり、多くは死んでしまうのです。残酷ですね。
被害にあうのは月を斜め前に見て飛ぼうとする虫だけです。斜め後ろに見て飛ぶ虫は灯火からしだいに遠ざかり、やがて灯りが見えなくなります。
(自然・環境評価研究部 沢田佳久)
Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 2002/06/26