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−兵庫の森−

シイ林の林内(神戸市)

 「森」という言葉からどんな風景を想像されますか。アニメ映画「もののけ姫」に登場する神秘的な原生林でしょうか。それとも、身近にあるコナラ林やアカマツ林でしょうか。もしかしたらスギやヒノキの植林を思い浮かべる人もいるかもしれません。いずれにしても、私たちが抱いている森のイメージは、人によって実にさまざまです。では、実際に目にする事のできる森にはどんなものがあるのでしょうか。兵庫の森を見てみましょう。

 

森の歴史

 今から約2万年前の最終氷期の最寒冷期には、年平均気温が今より7℃前後も低かったため、当時の兵庫県は冷温帯の夏緑林や亜寒帯の針葉樹林によって広く覆われていました。やがて氷河時代も終わり、温暖化が徐々に進むにつれて、多くの植物が北方へあるいは山の上の方へと移動し、それぞれの地域でいろんな森を形成していきました。照葉樹林は、温暖化につれて最も勢力を伸ばした森で、6千年前には兵庫県の低地のほぼ全域を覆っていました。その後、農耕の開始を引き金とする人間活動の活発化に伴って、照葉樹林をはじめとする多くの森が次々と伐採され、代わってコナラ林やアカマツ林などの二次林が拡がっていきました。地域によっては、クリ、クヌギ、スギ、ヒノキ、モウソウチク、マダケなどの植林も行われました。こうした自然の営みと人間による森の改変・創出が、長い年月をかけて営々と行われてきた結果、様々な森が兵庫県で見られるようになったのです。

 

森のいろいろ

 兵庫県は気候、地質、地形、人の影響などの環境条件が多様なため、驚くほど多種の森があります。森は、さまざまなタイプに区分されますが、自然性に着目すると、自然林、二次林、人工林(植林)の三つに大別することができます。ここでは、自然林だけを取り上げることにします。代表的な自然林は、瀬戸内海側の海岸に分布する硬葉樹林(ウバメガシ林)、低地から低山地にかけて分布する照葉樹林(シイ林、カシ林)、山地の夏緑林(ブナ林、イヌブナ林)、川沿いにある河辺林(ヤナギ林)および河畔林(エノキ−ムクノキ林)、湿地に生育する湿地林(ハンノキ林)、山地の渓谷沿いに見られる渓谷林(トチノキ−サワグルミ林、ケヤキ林)、山地の岩角地や尾根に分布する針葉樹林(アカマツ林、モミ−ツガ林)などがあります。このように、兵庫県では、さまざまな環境条件に応じたいろんな森が見られます。

人の利用によって維持されているクヌギ林の林内

瀬戸内海側と日本海側の森

 瀬戸内海側は降水量が少なく、やや乾燥した気候の影響を受けていますが、日本海側は降雪量の多い多雪気候下にあります。この気候条件の違いにより瀬戸内海側と日本海側とでは、森のタイプが大きく異なります。例えば、瀬戸内海側ではコジイ−カナメモチ群集というシイ林が見られます。しかし日本海側では、同じシイ林なのですが種組成が異なるスダジイ−トキワイカリソウ群集が成立しています。また、日本海側には、ブナ−クロモジ群集というブナ林やアスナロ林が生育していますが、瀬戸内海側にはそれらは全く分布していません。兵庫の森の特徴の一つはその多様性の高さにありますが、瀬戸内海側と日本海側におけるこうした森のタイプの違いも、兵庫の森の大きな特徴と言えるでしょう。

 

森は地域の宝物

 森は、その地域の自然環境だけでなく、地域の人々が長い時の流れの中で森とどのように関わってきたのかといった人と森の関わりの歴史をも反映しています。こうした森は地域固有のものであると同時に、一旦失ってしまうと容易に蘇らせることのできないかけがえのないものなのです。その意味で、森はまさに地域の宝物と言っても過言ではないと思います。
 地域の宝物である森をきちんと保全し未来へ引き継いでいくためには、まずそれぞれの地域にどのような森があるのかを知ることが大切です。いつも見慣れた風景の中にも、注意して見ればきっとすてきな森がたくさんあるはずです。いったいどんな森があるのか、探しに出かけてみてはいかがでしょうか。心躍るような素晴らしい出会いが待ち受けているかもしれませんよ。

 

(文・写真 自然・環境再生研究部 石田弘明)



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Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 2001/7/18