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昆虫1匹をファーブルのように追跡観察する

 1匹の動物の後を追いかけ、その一挙手一投足を記録していく…この「1個体追跡法」はウシ、ウマ、シカなどの大型哺乳類ではしばしば行われてきた行動研究の方法です。かつて、アンリ・ファーブルは昆虫に1個体追跡法を採用し、その記録を「昆虫記」の形でまとめていきました。ファーブルの昆虫記は多くの子どもに強い影響を与え、たくさんの昆虫少年を生み出してきました。しかし、「1個体追跡法」は普及しませんでした。虫は小さいうえによく飛ぶので、追いかけるのには適していなかったからでしょうか。

 私は、まず巣箱のセイヨウミツバチ1個体を追跡し、次に1匹のモンシロチョウの行動を記録しました。ハンミョウ・カブトムシ・ホタルも同じ方法で観察してみました。すると予想もしなかった新しい事にぶつかり、その虫の生活がくっきりと浮かび上がってきました。




長崎県で観察したハンミョウ




 この1個体追跡法に新しいハイテク記録装置を開発しました。行動の研究者はよくノートに「何時何分、何々の行動をした」と書くのですが、5秒単位の目盛りがついた記録用紙に行動の変わり目を記録していくと、その「何時何分」の部分が不要になります。その上、この記録用紙の行動の変わり目点をデジタライザーという座標点入力機器で入力していくと、データは簡単にデジタル化できるのです。大量のデータが発生する1個体追跡法では、デジタル化してコンピューターで処理できる事は強烈なメリットです。

 この強力な記録用紙にはちょっとした技術が必要でした。行動が変化したと思ったら、パッとアナログの腕時計の秒針に視線を移して,秒針の位置を網膜に焼き付け、次の瞬間には記録用紙には視線を移して、秒針の位置に相当する記録用紙の位置に線を引くのです。慣れれば簡単な操作なのですが、慣れるまで少し時間がかかり、誰にでも1個体追跡法を奨めるわけには行きませんでした。




記録した1個体追跡法の専用記録用紙の一部




 そこで、姫路工業大学の学生の協力を得て、発光ダイオードが5秒間隔で光ってくれる機器を開発しました。名付けて「タイムチェッカー」。これを使えば,記録用紙の光っているところにチェックを入れ、そこに行動の略号を書けばいいのです。これで時計を見る手間が省け、すばやい行動にも即座に対応できます。今年の「トライやるウィーク」で中学2年生に試みてもらいましたが、結構うまく使いこなしていました。

 さて、この新兵器・タイムチェッカーですが、これを使ってファーブルのように昆虫の生活を記録したい方はおられるでしょうか。もし、このタイムチェッカーを実際に使用するなら、目的の虫があなたに素晴らしい世界を、きっと見せてくれるはずです。




記録用紙をセットしたタイムチェッカー。
矢印のところが光って、5秒ごとに右に移動する。





(生態研究部  大谷 剛)


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Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 2000/12/20