日本海が誕生した頃の熱帯の海
〜1F 地学ドーム内「日本列島の成立」から〜
現在の日本列島は、南から暖流(黒潮)と北からの寒流(親潮)双方の影響を受け、亜熱帯から亜寒帯までの広い気候帯の海に囲まれています。このような日本列島をとりまく海の環境は、太古からずっと同じわけではありません。日本海が誕生した約1650万年前の前期中新世末には、日本列島周辺は現在よりもずっと暖かでした。
この時代を代表する貝類化石の一つにビカリア(Vicarya)があります。ビカリアはパキスタンの前期中新世の地層から19世紀半ばに始めて記載された巻貝で、その後インドネシアやフィリピン、韓国、北朝鮮、そして日本のほぼ同時代の地層からも見つかっています。このほか、パキスタンやインドネシア、日本では、より古い時代の地層からも知られています。ビカリアそのものは絶滅属ですが、一緒に見つかる貝類化石や殻の内部の成長線のパターンから、熱帯〜亜熱帯の干潟にすんでいたと考えられています。現在知られているビカリアのもっとも北の産地は北海道の渡島半島です。このことから、当時は北海道南部までが亜熱帯だったことがわかります。
西日本各地のこの時代の地層からは、ビカリアとともにヒルギシジミ(ゲロイナ)やセンニンガイなどの熱帯のマングローブ湿地に住む貝殻、そしてオヒルギやマヤプシギなどのマングローブに特有の植物の花粉の化石が発見されています。ヒルギシジミの化石は新潟県村上市からも知られているので、現在では種子島を北限自生地とするマングローブは,この当時は新潟県北部まで北上していた事になります。
暖かい気候のもとで東北日本南部にまで分布を広げた熱帯性の動・植物ですが、地球規模の寒冷化が始まる約1500万年前までには、日本列島周辺からその姿を消してしまいます。これらの化石は太古の温かい海が地層に遺した"おきみやげ"といえるでしょう。
(地球科学研究部 松原 尚志)
Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 2000/12/20