ため池の生物
〜3F 池沼と海 「東播磨のため池」から〜
兵庫県は日本一の「ため池」県です。全国のため池のほぼ2割、約5万個が兵庫県にあります。ため池は、雨が少ない夏に備えて、水稲耕作を可能にするため人々が長い年月を費して作りあげてきたものです。特にため池が多いのは、神戸市西区から明石市・加古川市にかけての東播磨地方、そして淡路島です。稲美町の天満大池(800×500m)のような大きいものから10 程度のものまで、ため池の大きさは様々です。
ため池の立地には、人間の稲作の歴史と地形・地質が密接に関係しています。山間では、谷奥に小さなため池がたくさんあります。これは谷の奥で粘土層の上の砂レキ層からにじみでた水をためたもので、その下に水田をつくってきたのです。谷の上から低湿地・ため池・水田の順に並んでいる風景が、兵庫県南東部の典型的な里山景観となっています。一方、稲美町などの東播磨では、平地のわずかな窪みの四方にせきをつくった皿池といわれるため池が目立ちます。これらの池は江戸時代に台地の新田開発でつくられたものが多く、雨水や河川の水をためたものです。
こうしたため池とその周辺にある低湿地は生き物の宝庫です。ため池はオニバス・アサザなどの植物、ニッポンバラタナゴなどの魚、低湿地にはサギソウ・トキソウなどの植物、ヒメタイコウチ・ハッチョウトンボなどの昆虫のすみかとなっています。ため池・低湿地は兵庫県が全国に誇るべき自然ですが、ため池はもともと人間がつくったもの、低湿地は小規模で目立たないただの不要な草はらとされて、生き物の存在が忘れられ、埋め立てられてきました。写真は、博物館開館時(平成3年)に撮影したため池のオニバス群落ですが、ここもすでに埋め立てられて工場用地になってしまいました。ここ数年は生物多様性への関心が高くなって、明石市ではオニバスを保全する活動が行われています。今後とも兵庫の身近で貴重な自然を積極的に残したいものです。
(生物資源研究部 鈴木 武)
Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 2000/06/27