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新種はどのように報告されるのか

新種と名前

 人と自然の博物館では,生物の多様性を調べるため国内や国外で幅広く自然史資料の収集をおこなっています(下図)。集められた資料は,地域の動植物誌の作成や特定の生物群についての分類学的研究などに利用されますが,その過程で見つかるのが「新種」とよばれるものです。
 新種を野外で発見すること自体は,それほど難しいことではありません。キノコやごく小さな昆虫の仲間のように,まだあまり研究の進んでいないものでは,野外で一日採集すれば10以上見つかることもあるそうです。もっとも大変な作業は,新種を見つけることではなく,自分の採ったものがまさしくこれまでも報告したことのない,新しい種であることを確認することにあります。だからという訳ではないでしょうが,新種を学会に報告する人には,自分で名前(学名や和名)をつけられるという特典があります。学名の付け方には「国際命名規約」という厳格な定めがありますが,和名にはこのような規則はなく,好き勝手につけてもかまいません。そうはいっても,あまり変な名前をつけると誰も従ってくれないのは,どの世界でも同じです。



写真 インドネシア・セラム島での調査
荷物を運んでくれたポーターたち

新種報告は世界観の表明

 新種を見つけると,研究の成果を研究論文として学会誌など公の場所で発表することになりますが(下図),発表したからといってすぐ皆が認めてくれるというものではないのが,分類学のちょっと複雑なところなのです。雑多で混沌とした世界の中からある特定のものを新種として認識することは,言葉を変えれば「自分は世界をどう認識するか」ということですから,人によって意見が異なるのもそれほど不思議ではないのです。
 新種なんてもう現代ではほとんど見つかることはないでしょうね,と質問されることがしばしばあります。これは全くの誤解です。昆虫やキノコよりもずっと研究の進んでいる植物でさえ,毎年4000〜5000種以上の新種が報告されているのですから驚きです。



コケ植物の新種を報告した論文

基礎科学と博物館

 これまで分類学という学問は大学が中心となって支えてきました。ところが最近では,分類学のような基礎的な分野の研究予算や人員が大幅に削られ,大学での活動が難しくなりつつあります。この状況は日本に限ったことではなく,アジアの他の国々や欧米でも同じと聞いています。その結果,多くの自然史資料と研究スタッフを抱えている博物館のはたす役割が,非常に重要になってきているのです。基礎的な研究を行い,その成果を広く公開し,さらに将来を担う人材を育成する。こういった活動を積極的に行うことが,これからの博物館がはたすべき大切な使命だと思います。

(系統分類研究部 秋山弘之)


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Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 2000/04/21