シロアリといえば、木材を食べて家を倒すやっかいな害虫(がいちゅう)という印象が強いかもしれません。この木材を食べるという習性は人間にとってはやっかいですが、生態系(せいたいけい)の中では重要な役割を果たしています。シロアリはふつうの生物が利用しにくいものを精力的(せいりょくてき)に消化することで、自然の物質循環(ぶっしつじゅんかん)に大きく貢献しているのです。日本には18種類のシロアリがいますが、家屋(かおく)を加害するのはイエシロアリやヤマトシロアリなどの一部で、他は野外で生活し、枯れ木や落ち葉、枯れ草などを食べています。
シロアリが木材や落ち葉などを利用できる秘密は、様々な微生物(びせいぶつ)との共生にあります。シロアリの腸の中には多くの原生動物(げんせいどうぶつ)やバクテリアが生息し、消化の難しい成分の分解を助けているのです。さらに、熱帯のキノコシロアリの仲間は、消化できない成分がたくさん混じった自分たちの糞(ふん)を肥やしにしてキノコを育て、それを食べます。そのために、キノコシロアリはキノコの栽培に適した温度や湿度に巣の環境を保ちます。微生物やキノコからみても、シロアリは自分たちの必要な餌(えさ)を集め環境を調整してくれるとてもいい共生相手なのです。
このようなシロアリの生活は女王と王を中心に多くの働きアリや兵アリによって維持(いじ)されています。働きアリが集団で大きな巣や通路をつくり、大量の食材を運んだり分解したりするのです。そのためシロアリはやっかいな害虫にもなるのですが、大量の養分を集めて動物の食べられるものに変えてしまう営みは、多くの生き物に恵みをもたらします。アリ、クモ、カエル、鳥、ほ乳類などいろいろな動物がシロアリを餌にします。アフリカなどでは人間にとっても貴重なタンパク源になっています。そして、栄養豊富なシロアリの塚の周りでは植物も良く育つのです。
(生態研究部 坂田宏志)
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Hyogo
Revised 1999/10/29