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展示の周辺

ブナはいつ、どこからやってきたのか?
〜2F 生物の世界・分布「日本の動植物の由来」の展示から〜

 日本の代表的な森にブナ林があります。ブナは温帯のやや涼しいところに生えていて、兵庫県では六甲山(ろっこうさん)や、氷ノ山(ひょうのせん)などの但馬の山に登れば見られますが、いずれも標高700-800 m以上の涼しいところに林をつくっています。温帯の林にはブナの他にもカバノキ属や、シデ属、コナラ属、ミズキ属、カエデ属などの落葉樹がいろいろあって、日本の山を特徴づける美しい林ができています。こういう林はいつごろから日本列島にあったのでしょうか。

 化石の記録によると、いまから約5,000万年前の第三紀初めごろには、ヤナギ属、カバノキ属、コナラ属、クリ属など、いまの日本の温帯林をつくっている植物と同じ仲間が北極のまわりに広く生育していました。これらは第三紀周北極植物群(だいさんきしゅうほっきょくしょくぶつぐん)とよばれています。当時の日本は暖かく、北海道あたりでもヤシやバナナの仲間が生えていました。その後、北半球全域がだんだん寒くなり、それまで北極のまわりでしか生きられなかった第三紀周北極植物群は、どんどん南へ分布を広げていきます。約2,500万年前の第三紀中新世(ちゅうしんせい)のころになると、日本でも沖縄の方にまでそれらの植物が広がっていたようです。その後、現在までのあいだに何回か気候が変わり、それにつれて植物も北上と南下を繰り返しながら、それぞれの地域の環境に適応してさまざまな種へと進化してきたのです。

氷ノ山のブナ

 ブナ属植物も、中新世のころには北半球の中緯度地域に広く分布するようになりました。兵庫県の周辺でも低地にブナ林が広がっていたかも知れません。ただし、そのころの日本のブナ属植物は現在のものとは異なり、細長い形の葉をもつアンティポフブナという種でした。その後、1,500万年くらい前になるとアンティポフブナはなくなり、ムカシブナとアケボノイヌブナという2種が現れます。ムカシブナは現在のブナの先祖とみられます。一方、アケボノイヌブナは現在のイヌブナとの関係があるものと考えられます。しかしながら、どちらの場合も直接の先祖かどうかは分かっていません。現在のブナと同じ形の化石が出てくるのは、約200万年前の第三紀終わりのころまで待たねばなりません。

(系統分類研究部 高橋 晃)



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Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1999/07/29