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兵庫県のニホンザル


 兵庫県のニホンザルの分布。濃い陰は集団の生息を、薄い影は離れザルなどが確認された地域を表します。清水ら (1996) より改変。
 もし兵庫県にヒトが一人も住んでいなかったら(環境改変がなかったら)ニホンザルの生息に適した森はどのような分布を示すかを推定した図。三谷・池口 (1997) より改変。

 ニホンザルの遠い祖先は熱帯からやってきたはずですが、兵庫県のニホンザルは雪深い但馬地方を中心に分布しています(図1)。これは不思議なことです。もっと多くのサルが、温暖な瀬戸内海沿岸に住んでいてもよいはずです。しかし、よく考えてみると、瀬戸内海沿岸の暖かい地方とは神戸市を中心とする地域で、そこにはきわめて大きな人間活動が見られることに気が付きます。

 つまり、兵庫県のニホンザルは、人間活動の影響から二次的に但馬地方に分布するようになったのだと考えることができます。

 ためしに、兵庫県には人間が一人もいないと仮定して(つまり人間活動による環境改変が存在しないとして)兵庫県域でニホンザルの生息に適した森林の分布がどうなるかを推定してみました。すると、ニホンザルの生息に適した森林は、氷ノ山域と湿地を除く、兵庫県のほぼ全域に分布することが確かめられました(図2)。また、そのような森林のほとんどは常緑広葉樹林でした。

 一方、人間活動の影響を受けた現在の環境では、ニホンザルの生息に適した森林は小さな「島」状の分布をしています。さらに、そのほとんどは二次林の落葉広葉樹林です。兵庫県を含む関西地方とは、もともと常緑広葉樹林が広く広がる地域だったのですが、人間活動の影響で落葉広葉樹林に置き換わっているのです。

 小さな単位に分断された森では、ほんの「少しの」変化がそこに住む動物には大きな影響を与えます。そのような「少しの」変化がニホンザルを畑に導き、作物への被害をもたらすことがあります(サルによる被害を、特に猿害〔えんがい〕と呼びます)。ニホンザルに対しても、「見かければ餌を与える」といった家畜のようなかわいがり方をするのではなく、野生動物として彼らが安心して暮らせる環境を残し、また増やす努力が、猿害を減らすことにつながります。

(生態研究部 三谷雅純)


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Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1999/02/02