研究のためにキノコの採集をしていると、「それ食べられるんですか?」とよく尋ねられることがあります。この頁の写真のように、普段見慣れたシメジやマツタケとはかけ離れた形をしているキノコの場合には、特にそうです。植物や昆虫採集していても「食べられるの?」と聞かれることは滅多にないでしょう。どうも社会通念としてキノコは野生生物というよりは食用品・山菜の類のようです。でも、「食べられますよ」と答えてももゲテモノ食い扱いされるのですが…。
ところで、毒キノコの毒とはどんなものと思いますか?かぶれたり病気になるといけないから、さわらず、胞子も吸い込まない方がいいと思ってる人も多いようですが、実際には、食べたら中毒するが、さわっても全く問題ありません。かぶれることも病気になることもありません。かぶれると思っている人は意外に多いようで、博物館には「毒キノコみたいだったので写真だけ採りました」という同定依頼が時たまあります。毒キノコでもこうなると哀れです。観察対象としては植物や昆虫の観察よりよっぽど安全です。
観察しようと図鑑をみても、みんな似ていて探せない、そんな声も聞きます。名前はわからなくても観察は楽しめます。観察すれば違いも見えるし、名前が調べられればまた楽しい、ということでやっぱり観察が基本。今日はキノコの採集と観察ポイントをいくつかあげてみました。
春から秋にかけて、雨の2、3日あと山道を歩くと、たいていいくつかのキノコに出会います。キノコは死んだ植物を分解したり、生きている植物と共生して炭素を分けてもらっていますから、樹も倒木も落ち葉も土の中の腐植もたっぷりある、森へ行けば色々なキノコにあえます。スギやヒノキはキノコと共生しませんので、雑木林や松林、シイ林などの方が楽しめるでしょう。秋だけでなく、梅雨明けの頃もたくさんのキノコがみられるよいシーズンです。町中でも街路樹や公園の芝生、花壇などでいろいろキノコにあえます。ちょっと視線を落として探して見ませんか?
植物の観察に出かけるときとあまり変わりませんが、キノコ狩りで気をつけた方がいいのは、蚊の対策でしょう。山の中は意外に遅くまで蚊がいます。また、キノコを壊さないように掘りとるためには、根掘り(山菜掘り)や小さなしゃべるが便利でしょう。とったキノコを入れる手提げの紙袋も忘れずに。ビニール袋は禁物。帰った頃にはべとべと、ぼろぼろです。手提げの紙袋に新聞紙で包んで持ってかえるのが通気性・吸湿性ともに最適です。
キノコをとる場合には必ず、根本からとりましょう。種類の特徴は根本や柄の部分にも良く出まから(編み目模様やささくれがあったり、根本が膨らんだり、「つぼ」があったり)、採ったキノコの名前を決めるために是非とも必要なのです。山菜などを採る場合には根を残すようにと書かれていたりしますが、植物と違いキノコは根元を残してもなんの意味もありません。キノコの周りの土の中に広がっている菌糸が重要な本体なのですから。
持ってかえる前に、新鮮なうちに観察をしておきましょう。たとえば、イグチの仲間やベニタケの仲間には傷が付いたときに色がかわることがあります。傘の裏側のひだや管孔(編み目の部分)を爪でさっとなぜてみましょう。青くなったり、赤く変色したりします。他にも傷を付けたときに乳液を出すものがあります。さらに白い乳液が変色する場合があります。手触りやにおいも大事です。こんな特徴がわかると、図鑑も絵を眺めるだけから一歩進んで説明も読みたくなるでしょう。
少し勇気がいるのは「味」。酸味や苦味・辛味を持っているキノコもあります。別に害はありませんから、ぜひちょっぴり舌の上にのせてみて下さい。ニガクリタケなどの毒キノコを見分けるときの手がかりになる場合もありますし。
とはいえ毒キノコを簡単に見分ける方法は、というと、やはりありません。「縦にさけるキノコが大丈夫」、「色の派手なのはダメ」など、全部迷信。毒キノコを見分ける方法は、手にとってよく観察しておく、この一つだけです。激しい中毒を起こすものはそれほど多くないので、図鑑でもよく確認しておきましょう。
観察を進めていけば名前を調べたり採集する楽しみも増えて行くでしょう。もちろん動機が食欲にあっても、誰も不純だといって責めたりはしませんから。
(大阪市立自然史博物館 佐久間 大輔)
キノコについて知りたい方は、著者のホームページを訪ねてみてはいかがでしょうか
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