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新コーナー紹介

3階 兵庫の哺乳類「森に生きる」

 兵庫県には、私たちに身近な里山から自然度の高いブナ林まで、さまざまなタイプの森が見られます。おのおのの場所にどのようなタイプの森ができあがるかは、気温や降水量といった自然条件と人々の森林の利用の程度の違いが決めるのだと言えます。そのようなさまざまな兵庫県の森には、また、それぞれの森に固有の動物が住むことでしょう。

 もちろん、中には特定のタイプの森にだけ住むのではなく、さまざまなタイプの森に共通に見つかる動物もいます。それは、ニホンイノシシやホンドギツネ、テンなどです。彼らは、里山からブナ林にまで広く分布する動物です。キツネの一部は、市街地近くにも住んでいます。そのような彼らの広い分布は、彼らが、もっとも柔軟にさまざまな環境に適応できる能力を持っていることを示しています。では、特定のタイプの森にだけよく見つかる動物とは、どのような動物のことでしょう。

 ある場所にどのようなタイプの森があるかを知るためにもっともよい方法は、その場所に実際に行ってみることです。しかしそれができなくても、およその見当をつけることはできます。標高は、そこにどのような森ができあがるかを知るおよその目安となります。すると、動物のおよその分布も、その場所の標高を知ることでおよその見当がつきそうです。展示「森に生きる」は3段に別れていますが、これはおよその海抜高度を表しています。下から順に、どのような動物が住んでいるのかを見て行きましょう。

 標高の低い地域は、かつては広い面積に渡って常緑広葉樹林、つまりシイの木の森が存在したと考えらる場所です。しかし、そのような地域の多くは人口密集地と重なり、今日では豊かな自然は残されていません。そのため、標高の低い地域では、孤立した森にでも生き残る動物や市街地近くでも生きていける動物、あるいは広い適応能力のある動物だけが見られるようになりました。

 中程度の標高になると、ニホンザルやニホンジカが見られます。これらの動物はある程度の自然が残った環境でないと生きてはいけません。そのため、神戸市などにもかつてはサルやシカが分布していたのでしょうが、人間によって”すみか”を追われ、今では中程度の標高の地域にのみ見られるようになりました。また、ニホンザルとニホンジカは、極端に積雪の大きな地域には生息できません。その理由は、あまりに大きな積雪が冬季の食物を乏しくしてしまうからだと言われています。ですから、あまり高すぎる山の上にも見られないのです。

 さらに高い標高になると、ツキノワグマやイヌワシが見られます。ツキノワグマやイヌワシは、もっとも自然度の高い森でしか生きていくことはできません。しかし、そのような自然度の高い森は、もうあまり多くは残されていません。ツキノワグマはしばしば人家近くに出没し、場合によっては「有害獣」として駆除の対象になることもあります。しかし、よく調べてみると、クマがよく人家近くに出没する年は、ブナなど山の堅果(けんか=どんぐりの仲間)類が不作の年であることがわかります。冬眠をひかえた秋のツキノワグマは多量の堅果を食べて栄養を蓄える必要があります。標高の高い山に小規模に残された森だけでは充分な栄養が得られない時、クマは餌を求めて人里近くに下りるのだと考えられます。

 兵庫県域のツキノワグマ、ニホンリスは絶滅のおそれがある地域個体群(ちいきこたいぐん)、イヌワシは絶滅のおそれがある種とされています。兵庫県でも、そのような動物の絶滅を回避する努力が続けられています。一方、ニホンジカやイノシシは、農林業に被害を与える動物として適切な個体群管理が求められています。

 共に地球に生きる仲間として、私たちは、これら野生動物との共存の道を探らねばなりません。

(生態研究部 三谷 雅純)

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Copyright(C) 1997, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1997/06/18