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里山の野草 その1

カタクリ

「もののふの八十をとめ等が 汲みまがふ寺井の上の 堅香子の花」

 大伴家持が<寺の境内に流れる清水を汲みにきた乙女たちは美しい、またその奥の山裾に咲いているカタクリも美しい>と万葉集で詠みました。この花が咲くのは大気がまだまだひんやりと肌寒い早春です。兵庫県下の人里にも何カ所かこんな景色を彷彿させる所があり、大事に残したいものです。デンプンがいっぱいつまった球茎は干して粉にすると片栗粉となります。

ヒメハギ

 地表すれすれに咲き、一見小さな萩に見えることから名が付いたと思われます。春から夏にかけて、裸地的な日当たりのいいところに生える常緑の多年草です。高茎の草や木に覆われると育ちませんが、日当たりいい裸地を探して転住を重ねるワンダリングフラワーといえます。

オドリコソウ

 植物の名前には、昔の日本人の着想力、発想力に敬意を表したくなる和名が多いのです。このオドリコソウも、昔からいろいろな名前が付けられ、そのうちにほぼひとつに収斂されてきたものと思われます。本種は人里近くの山麓に多くみられ、山腹の上部や山上近くの群生はまれです。

フタリシズカ

 能の謡曲に「二人静香」があります。義経を思いだして舞う静御前の霊と同じ衣装を着た女性が寸分違わぬ動きで舞います。四枚の葉のあいだから白い花穂が二つ立つ花序の姿をこの能に重ねたものです。巧みに捉えた先人の発想の豊かさに感服します。

ギンリョウソウ

 生活史がいまだはっきりとはわかっていない植物です。果実が裂けて飛び散った種子が翌年咲くのか、何年間か地中や腐葉にくっついて生活していたのか皆目わかかりません。この種子をとって花を咲かせた話は聞いたことも読んだこともありません。本種は山麓の照葉樹林内にときどき見られ、形や色から「ゆうれいたけ」の別名をもちます。

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Copyright(C) 1997, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1997/06/18