まえに戻る 目次へ つぎへ進む  



マッターホルンとゼオダール氷河(スイス)

地球のどこかで

 人と自然の博物館に勤め始めてから、すでに4年近くが過ぎました。その間、ロシア、エチオピア、カンボジア、といった国々へ調査へ出かけることができました。中でもエチオピアの調査は、1994年から1998年まで足掛け5年に渡る長期の調査です。すでに今年で3回目のエチオピア出張となり、博物館の中では、「地球科学研究部の加藤といえば、夏になるといつもアフリカへ避暑に行く?」と有名になってしまいました。
 しかし、沿海州を流れるウスリー川の川下り調査を除けば、どの海外調査についても、つらい思い出ばかりが心に浮かんできます。ぼくの胸の中で、これらの調査が楽しい思い出に変わるのには、まだまだ時間がかかりそうです。
 というわけで、今回は初めての海外旅行の思い出を紹介します。


アルザス建築様式の家(南フランス・コールマール)

 初めての海外は、ぼくがまだ東大・地理学教室の大学院生だった1991年のことです。大学院の同級生が”ヨーロッパの地形”という本の翻訳を手伝った際に、翻訳者のあいだで、「翻訳者は実際の地形を見ておくべきだ。」ということになって、約1カ月間のヨーロッパ巡検旅行が計画されました。その同級生から「一緒に行かないか?」と誘われた時に、代表の先生が知り合いだったこともあり、二つ返事で参加することにしました。そして、せっかく行くのならと、巡検旅行の前後1、2週間は一人でヨーロッパを回ることにしたのです。
 さて、南ドイツを旅行した時です。駅のインフォメーションセンターで民宿の予約をし、宿へ行こうとして道に迷ってしまいました。そこで、道行く老夫婦にかたことのドイツ語で宿を尋ね、やっとたどり着いた宿はなんと違うところ。しかも宿は休みでした。困ったぼくは近くの民家を尋ね、再び宿の場所を聞きました。出てきた女の人は英語ができるご主人を呼んでくださり、何とか会話ができる状況となったのです。彼は電話で宿の場所を確認し、自家用車でそこまで送ってくれました。その時のありがたさは、今でも忘れられません。
 また、笑い話を一つ。やっとたどり着いた宿での朝食風景です。ぼくは宿の人に何かを尋ねられました。南ドイツなまりのドイツ語です。飲物の種類を聞かれたのかと勘違いしたぼくは、思わず「コーヒーを。ミルクをつけてください!」と答えました。そのとたん、回りから笑い声の嵐。すると奥さんが、かたことの日本語で「かたゆで、はんじゅく・・・」と。そうです、ゆで卵のゆで方のことだったのです。
 日本と違う雄大な大自然、歴史の古い、美しい街並。感動するものはいくらでもありました。けれども、いつまでも心に残るものは、こうした旅先での人々とのやりとりであったような気がします。         (地球科学研究部 加藤茂弘)


白亜の海蝕崖(イギリス・ドーバー海峡)


まえに戻る 目次へ つぎへ進む  


Copyright(C) 1997, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1997/03/30