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河川に広がる原野
利根川や淀川に代表される大河川の中・下流域には自然に草地が広がる環境ができています。これらの地域では増水時には水浸しになるとともに、地上に生えている植物が流されたり、土砂によって埋まったりする撹乱を受けることがあります。そして撹乱の強度や頻度に応じて様々なタイプの草原が現れます。このような環境に成立する草原を原野と呼ぶことにします。原野にはヨシを代表とする特有の植物が見られますが、河川の改修や開発とともに原野の豊かな自然が失われようとしています。「豊葦原の国」が「豊悪原の国」にならないよう河川の自然環境を守って行きたいものです。
城北ワンド郡(淀川)
安曇川河口(琵琶湖)
フジバカマ(キク科)
秋の七草として有名なフジバカマは河川の中流域から下流域の原野に見られる多年草で、秋に薄桃色の小さな花を多数咲かせます。クマリンを含んでいるので、特有の芳香がします。最近の河川流域の開発にともない、生育地が激減したため、絶滅危惧種の一つに数えられるようになりました。
タコノアシ(ベンケイソウ科)
茎の先端に放射状にのばした果序に多数のコンペイトウのような果実がついた様子はタコの足のように見えます。タコノアシは河川敷の低湿地などに群生し、秋には赤褐色に紅葉して目立つようになります。ヨシなどの背が高い植物が侵入してくると消えて行くので、常に撹乱が起こる、河川の低湿地に群生地をつくります。
ツルヨシ(イネ科)
端午の節句に食べる茅巻やヨシズに使われ、なじみの深いヨシの仲間です。ヨシは河川や湖沼の低湿地で大群落をつくりますが、ツルヨシは流れの速い小さな河川や岩がゴロゴロしたところに生えており、長い地下茎を出す性質を持っています。ツルヨシもヨシも河川の開発によって姿を消しつつあります。
サツキ(ツツジ科)
庭園や盆栽でよく見かけますが、サツキは岩に囲まれた渓谷など、川の流れが速く、水位の変動の激しいところに生えている低木です。川が増水しても流されないように根は岩の割れ目深くに伸び、葉も小さく流線型になっています。このような植物を渓流植物と呼びます。渓流植物は治水ダムの建設などによって生育地ごと消失してしまうことがあります。
ナガエミクリ,オオミクリ(ミクリ科)
河川や湖沼の浅水中に生育する抽水植物で、名前は果実がクリのイガに似ており、実栗からきています。ミクリの仲間は日本に十種類程度産するといわれていますが、日本に何種が自生し、各種の分布がどうなっているのかなど、基本的なことさえよくわかっていません。河川改修により、その実態がわからないうちにひっそりと姿を消しつつあります。
オオカナダモ(トチカガミ科)
南米原産の帰化植物で、日本には雄株だけが入ってきています。大きなものは一メートル以上に達し、ちぎれた断片からでも成長できるので、関東以西の温暖な河川や湖沼で近年増加傾向にあります。花は初夏から秋にかけて水面上に突き出して咲き、白色でその日のうちにしぼんでしまいます。琵琶湖では水探によってコカナダモと住み分けているようですが、在来のクロモを駆遂しつつあります。
(生物資源研究部 藤井俊夫)
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Copyright(C) 1997, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1997/03/06