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◇ 河川の帰化動物ヌートリア  

ヌートリアとは?  ヌートリアは、本州の西部と四国の一部に生息する大きなネズミ の仲間です。頭と胴体を合わせた長さは70センチメートル前後、 体重は7キ□グラムに達します。湿地を好み、日本列島では河川の 土手や中州に細長い穴を掘ってすんでいます。ほとんど完全な草食 性で、刈り取り前の水田の稲を倒したり、畑の作物をかじって農家 に被害を与えることもあります。飼育下では、リンゴやキャベツの しんが好きでした。 河川の帰化動物  ヌートリアは、もともと日本列島にすんでいた動物ではありません。 野生のヌートリアは、南アメリカのブラジルからアルゼンチンにかけ ての河川に分布しています。それが、日本でも1930年頃から毛皮獣と して飼育されるようになり、その一部が逃げ出して、現在のように西 日本のあちこちの河川に住み着くようになったのです。ヌートリアの ように人間によって持ち込まれ、やがて人間の手を離れて野生化し、 自然増殖を始めた外来の動物を、帰化動物と呼びます。哺乳類では、 同じく毛皮獣として持ち込まれ北海道で繁殖しているミンクや、ペッ トとして持ち込まれたアライグマも日本の帰化動物です。 ヌートリアのたどった道  農作物に被害を与えて農家の憎まれ者となったヌートリアですが、 毛皮獣として輸入され始めた当初は軍服の毛皮用に大量の需要があり、 盛んにもてはやされたのだそうです。  それが、第二次世界大戦後は毛皮の需要が減少し、やがて飼育家か ら見捨てられたという経歴をもっています。そして、現在では、河川 改修によって巣穴を掘る土手がコンクリ一トで固められたり、湿地が 埋め立てられたりして、その数を減らしている地域も多いと聞きます。 いわば、日本列島のヌートリアは、人間の都合に翻弄され続けた動物 だと言えそうです。 帰化動物の「命の重さ」  農家に被害を与えるヌートリアは、駆除するべきであるという意見 があります。一方でそれはかわいそうだという人もいます。私たちは、 ヌートリアのように、近世以後になって日本列島の自然に「帰化」し てきた生き物の命をどう考えればよいのでしようか。  帰化動物は、その土地の自然に育まれて進化した生き物ではありま せん。あくまで「よそ者」が、繁殖カの高さや天敵のなさに助けられ、 よその土地に定着した生き物です。もし、私たちが、その土地に固有 の生き物の進化の歴史を尊重し、固有の生き物の形作る生態系を大切 にしようとするのならば、帰化動物は、いない方がよい生き物だとい うことになります。ただ、その時も、どのような経歴を持つ生き物で あれ、個々の生き物の命は同じだけの重さを持つのだと知って対応す るべきだと思います。そして何よりも大切なことは、人間の都合だけ で、安易に新たな帰化動物をつくり出さないことでしょう。 (生態研究部 三谷雅純)

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Copyright(C) 1995,1996, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1996/01/12