研究ノート
花崗岩の分布とたたら
地球科学研究部 先山 徹
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近畿〜中国地方には白亜紀(1億3500万年〜6500万年前)に形成された花崗岩が広く分布しています。花崗岩の研究は古くからなされてきましたが、日本列島の花崗岩類の研究が急速に進んだのは、1970年代以降、磁鉄鉱という鉱物が注目されるようになってからでした。花崗岩はマグマが地下深くで固まってできた岩石の一種で、石英・正長石・斜長石・黒雲母・角閃石などからなりますが、そのほかに、小量の磁鉄鉱が含まれることがあります。磁鉄鉱に注目して近畿〜中国地方の花崗岩について見ると、山陰地域に分布するもののほとんどが磁鉄鉱を含むのに対し、山陽・瀬戸内地方のものは磁鉄鉱を含まないことがわかります(下図)。研究の詳細は別の機会にゆずりますが、このことから、山陰側と山陽側では、花崗岩のマグマの性質や発生のしかたが異なっていることがわかりました。
一方、日本の花崗岩が過去に社会的・経済的な役割を果たしてきたのは「たたら製鉄」と「石材」においてでした。たたら製鉄というのは弥生時代に始まったとされる古代の製鉄法で、その原料となる砂鉄(山砂鉄)は、風化した花崗岩を削り取って水路に流すこと(鉄穴流し)によって採取されていました。たたらの発達は各地に古墳文化を作り、江戸時代をピークに明治時代中期まで日本の鉄文化を担ってきました。特に出雲地方の砂鉄は有名で、たとえば安来節の「どじょうすくい」は、本当は砂鉄をすくう姿なのだそうです。兵庫県では千種町で良質の鉄が得られ、千種鉄として有名でした。三木で金物の生産が盛んになった背景には、この千種鉄の存在が考えられます。しかし一方で、たたらは燃料である薪炭の利用や鉄穴流しによって山地を荒廃させ、大量の土砂を河川に流しました。千種川河口の赤穂市で、中世以降三角州が急速に発達した要因として、上流の鉄穴流しの影響を考える人もいます。
ところで下図に示すように、山砂鉄鉱床はほとんどが山陰地域の磁鉄鉱を含む花崗岩中に分布しています。つまり、山砂鉄というのは、ほとんどが花崗岩中の磁鉄鉱だったのです。一方石材に目を向けると、「みかげ石」の発祥地である六甲山地をはじめ、大阪城の石垣を出した北木島、国会議事堂の石材を供給した倉橋島など、有名な産地は山陽地域がほとんどです。山陰地域の花崗岩は磁鉄鉱が多いため、サビが出て石材として不向きなのです。
たたらや石材の利用に見られるように、昔の人が磁鉄鉱の有無に応じて花崗岩をうまく使い分けて利用してきたという事実がありながら、研究者が1970年代までそれに気付かなかったことは、とかく専門の枠にとらわれがちな私達研究者に対して色々なことを教えてくれるような気がします。
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Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/03/20