「展示こぼれ話」(1)

解説文はほとんど読まれない

−情報ボックスはこんなふうに誕生した−

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 私はずっとそう思っていた。博物館の職員になることなど夢にも考えなかったときでも、博物館は好きで、ときどき覗いたものだったが、びっしりときれいな文字で書き込まれた解説文を眺めながら、こんな文章、誰が読むかと思っていた。
 ひょっとした偶然で博物館の設立準備室に入ってしまってからも、「誰が読むか解説文」は絶対にやめさせようと、展示の内容が具体化する前から、解説文に代わるべく「解説装置」を提案したが、内容が先と一蹴された。こうした「装置」の採用いかんで、前面に出る「内容」に差が出てくるはずなので、先に決めておきたかったのだが、多勢に無勢。しかも無口で暗いかつての昆虫少年は議論に弱い。さらに優しい思いやりのある(言い換えると気が弱い)性格では、結局、自説は心の奥底に恨みで塗り込めたのだった。
 いったん展示グループから外されても「端正な解説文」をなくす機会を秘かに探っていた暗い元昆虫少年は、あるとき「準備室ニュース」と交換で送られてきた「名古屋市博物館ニュース」の記事に注目した。展示替えの機会に誰も読まない解説文をいっさい止め、すべてブラウン管にしてしまったという。これだ、私の求めていたものは。さっそく出張で名古屋に飛ぶ。担当者に会って詳しく聞いてみると、いろいろな映像を主体に解説する方法で、レーザーディスクにすべて入れていくので大変な作業の上、一旦つくってしまうと変更や追加ができないという。これでは、目まぐるしく変わる最新情報に対応できないではないか。
 無節操なアイデアマンはここで考えた。映像とナレーションで解説するのは一般向けにはよいが、より深い知識を求めてくる人には飽きられてしまう。それなら、文字と静止画で情報の入れ替えのできるパソコンにしたらどうか。動画のほうは情報センターのビデオ部門にまとめて見せればよい。
 このアイデアで展示グループに攻勢をかけたが、大半は「誰が読むか解説文」の安直さの魅力に勝てないでいる。しかし、そこはねばっこい昆虫中年。何とか食い下がって、大項目に一つぐらいずつ、そうしたフレキシブルな情報源があってもよいだろうというコンセンサスを取り付けたのだった。だいぶ後退してしまったが、丹精込めてつくった解説文のはずだから、情報ボックスで不足のところを補ったりアピールしてやれば「後で読まれる丹精文」ぐらいにはなるかもしれない。
 こんなわけで誕生した「情報ボックス」・・・外観はとりあえず出来てきても、「情報」を入れなければ動かない。開館間際には、上の後退劇がじつにありがたいと思ってしまった。情けない。
 センスのないアイデアマンに押し切られた「情報ボックス」など、開館が迫った各担当者の頭からとっくに吹き飛んでいた。開館半月前、遅れていた情報ボックス用のソフトも完成して、情報を入れるだけになった。各担当者もようやくメドがついてほっとしている。チャンスだ。無理やり各担当者を捕まえて情報づくりを始める。みんな今ごろ何だという顔をしていた。
 とくに大変だったのは、子供たちにかなり人気のある「おさらいクイズ」。とにかく最低5つの問題をつくらねばならない。そして1つずつ3つの絵がいる。展示につかっているフィルムなどはまだ戻ってきていない。展示場のガラスの反射を避けながら、素人写真をとりまくり、とにかくオープンに間に合わせなくっちゃ・・・。
 なんとか開館に間に合わせた「情報ボックス」を、子供たちは結構いじって遊んでいる。まだ内容は充実してないが、活用の余地と価値は十分。博物館の秘められた知性と余力を詰め込みたいですねぇ〜。

生態研究部 大谷 剛   


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Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/03/20