研究ノート

森林を考える

生物資源研究部 藤井 俊夫

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 ある地域の山林が山火事などでなくなると、様々な植物が入ってきて何百年か後にはもとどおりの森林になります。この過程を遷移といいます。遷移の最終段階にあらわれる森林は極相林と呼ばれています。日本ではブナ林や照葉樹林がそれに当たります。
 極相林は環境条件が変わらなければ半永久的に続くと考えられています。しかし森林を構成している個々の樹木には寿命があります。それでは樹木は極相林の中でどのように世代交代をしているのでしょうか。
 安定した森林が維持されていく現象を説明するものとして、ギャップ理論という仮説が1970年代後半に提出されました。安定しているように見える森林も、実際は樹木が枯れたり倒れたりして撹乱が起こり、森林の中に小さな穴が開きます。ギャップ理論はこの小さな穴(ギャップ)に森林の次世代の担い手となる若い樹木が育ってきて、全体では安定した森林を形成しているというものです。
 照葉樹林の維持機構を解明するステップとして、私は奈良の春日山でギャップに特異的に出現する樹木、クロバイについて研究を続けています。クロバイは寿命が百年程度と比較的短く、成長と成熟が早い樹木です。また大量の種子を生産し、種子が鳥によって広い地域に散布されるといったギャップ依存種の特徴を備えています。春日山の調査ではクロバイの成長、開花個体の有無、種子生産、種子散布など、様々なデータをとり、クロバイという樹木の生活史特性を明らかにしようとしています。
 研究を始めてから四年ほどが過ぎました。ようやく生活史に関する基礎的な情報が集まり、クロバイの気持ちがわかりかけたような気がします。クロバイにとどまらず、森林を構成している個々の種類の生活史を明らかにすることによってその集合体である森林の実態にせまれるのではないでしょうか。

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Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/03/20