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ハーモニー 2号 (平成5年1月)
表紙写真解説
雌雄モザイクのディディウスモルフォ
Morpho didius
人と自然の博物館設立の基礎となった坂口標本には学術上貴重な標本が多数含まれています。表紙で紹介したものは異常型のコレクションの一点、ディディウスモルフォです。本種は南米産の有名なモルフォ蝶の一種で、典型的な性的二型を示します。つまり褐色の地に弱い光沢をもつ雌に対して、雄の翅は全面が強い青色金属光沢で輝いています。
写真の標本が雌雄モザイク、すなわち体の部分ごとに雄の部分と雌の部分が明瞭な境を接して混在している異常個体です。翅の青く輝いている部分が雄でそれ以外が雌、よく見ると胴体も雌なのが分かります。
発生の過程で、性染色体に変化をきたすなどした細胞が殖え続け、遺伝的な構成が違う細胞がモザイク状に体を作り上げてしまったのが原因だと考えられています。この現象によって蝶の色彩における雌雄の切り替えがホルモンなどによって体全体で行われるのではなく、個々の部分の遺伝的要因だけで決まっていることが明らかになります。多数の異常個体で雌と雄の部分の分布を詳しく調べることによって、形態形成に際して体内での細胞の分散や移動を知ることができます。
(系統分類研究部・澤田佳久)
Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/03/20