人と自然の博物館への期待

兵庫県教育長 芦田弘逸

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 兵庫県立人と自然の博物館が条例に基づいて正式に発足したこの四月一日に新しく教育長として着任しました。私は昭和五十八年から四年間、教育次長を務めておりましたので教育委員会の勤務は二度目になります。当時、自然系博物館建設基本構想の取りまとめに私も参画していましたので、その後も博物館開館準備の進捗状況については人一倍関心をもって見守ってきました。
 今日、地球環境の問題は人類共通の最重要課題となっており、国際社会のなかで日本がどのような貢献ができるか世界の注目を集めています。そのような中で人と自然の博物館は、既に基本構想の段階から「郷土の自然の現況とその生い立ちを把握し、理解を深めるとともに、かけがえのない地球やその自然資源について認識を深め、自然保全の在り方を考える機会を与える場とする」ことを基本理念の一つとしてきました。このような理念の下に、従来の博物館が備えていた資料収集、展示、普及教育、調査研究の機能に加えて、ジーンバンク、データバンク、学術交流、シンクタンクといった特色ある機能を有する新しいタイプの博物館とすべく、関係者の理解と協力を得ながら、今日まで準備作業が進められてきたわけです。とりわけ博物館が高度な研究機能を確保し、維持していくことができるよう県立姫路工業大学の自然・環境科学研究所を博物館に設置し、同時に博物館の研究部門に位置づけ、結果として公立博物館で初めて教授制を導入したことは画期的なことであり、その成果を全国の自治体が関心をもって見守っています。大学において教育と研究が裏表一体で進められているのと同様、博物館においても研究の成果が展示や普及教育として反映され、そのような意味で両者は共通するものがあります。人と自然の博物館は、単に自然史だけでなく、自然との調和をはかる新しい「公園都市」など居住環境についても視野に入れて活動することとしており、地球科学、系統分類、生物資源、生態、環境計画の五つの研究部が置かれています。各研究部が相互に刺激し合い、協力しあって研究と展示等を一体的に推進し、他の博物館にとって範となる活動の展開が期待されています。
 兵庫県においては、生涯学習社会の実現に向けて、こころ豊かな人づくりを推進するために様々な施策を展開しています。県民の高学歴化が進む中で学習活動の質が高度化していく傾向が指摘されています。他方で、学校週五日制を踏まえて、青少年の学校外活動を推進することが求められています。これからの博物館は、こうした県民の多様な学習ニーズに応えていかなければなりません。
 兵庫県は日本海と瀬戸内海、太平洋に面し、豊かで多彩な自然環境に恵まれています。にもかかわらず、今日、子どもたちが日常生活の中で自然に触れる機会が少なくなっていると言われています。否、自分自身を含めて、親や教師も自然環境について、十分な知識や体験を持ち合わせていないのが現状ではないでしょうか。博物館は実物教育をその特色の一つとしていますが、人と自然の博物館にとっては、収集保存している博物館資料だけでなく、兵庫の自然そのものが教材であります。兵庫の豊かな自然を生かして、今後、人と自然の博物館が開かれた博物館として、県民とともに、自然環境や居住環境といった現代的な課題に取り組み、グローバルな活動が展開されることを期待しております。今年の十月十日にオープンするこの博物館に皆さんの一層のご支援・ご協力をお願い申し上げます。

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Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/03/20