ひとはく多様性フロアの準備のために資料を再整理していたところ、収蔵資料より今和次郎の直筆の入った図書を発見した。発見した図書について紹介しつつ、今和次郎(こんわじろう)の多岐に渡る活動を既存資料を用いて紹介する。
発見した図書は、建築家・図師嘉彦(1904-1981)宛に贈呈した図書であることがわかる。戦時中、諸工場の労働者向けの良質な住宅を供給することで、労働者の効率を挙げることが考えられ、特に寒冷地で如何にあるべきかを研究することが、日本製鉄会社より課せられた。主に北海道の労務者の住宅を調査した時の旅行記である。今和次郎といえば、いわゆる「民家」というイメージが強い中で、労務者住宅についての研究の一端が紹介されていて興味深い。住宅のみならず服飾への眼差しもあり、服飾研究にも通じるものが見てとれる。
青森県弘前市に生まれた今和次郎(1888-1973)は、民俗学者の柳田國男らがつくった民家研究の会「白茅会(はくぼうかい)」の活動に参加し『日本の民家』を刊行するなど民家研究で重要な足跡を残している。関東大震災を機に、一面焼け野原になってしまった東京の復興を、人々の生活や風俗から克明に記録していった。これが、昭和初期の急速に都市化していく東京の街の様子や人々の生活の変化を採集し氏の提唱した「考現学(こうげんがく)」につながっていく。戦後には、日常生活を考察する「生活学」や「服飾研究」といった新しい学問分野も開拓している。
昨今、青森県立美術館、パナソニック汐留ミュージアム、国立民俗博物館にて「今和次郎 採集講義」と題した展覧会が開かれるなど注目を集めている。
山崎義人(自然・環境マネジメント研究部)