前のブログで紹介しておりました『シロシャクジョウ』の封入標本が完成しました。
上の写真はコンパウンドによる磨き上げが完了した状態です。
残すはケイ素ポリマーによる無機ガラスコーティング処理とフッ素コーティングだけです。ガラスコーティングの前に写真を撮らないと、反射がきつくてきれいに撮影できません。
これは、別の観点から説明すると、表面のかすかな傷をポリマーが穴埋めして、より透明性を確保すると同時に、鏡面効果により紫外線カットの役割を果たします。そのことで、樹脂や標本の劣化を抑えます。そのあと、フッ素樹脂によるコーティングを行います。これは、表面の摩擦係数を低下させて、ハンズオン展示の際の『すり傷』を減らす役割を果たします。
ときどき、各地の博物館でみかけるプラスティック封入標本ですが、このように細かな配慮がなされて展示されています。みなさん、ハンズオン展示といえども、丁重に取り扱ってくださいね。
この標本ですが、シロシャクジョウの発見者であり、採集の案内をしてくださった『丹波自然友の会』の皆さんとの共同で、12月のはじめに披露したいと思います。また、日程と場所が決まりましたら、ご報告いたします。
ここで宣伝です!
11月19日に当館にて『封入標本づくり』の実習講座があります。
http://www.nat-museum.sanda.hyogo.jp/education/11syousai/F08.html
10月30日までが締め切りですので、関心のある方は早めにお申し込みください。
小学校の授業で限られた時間でも完成させる迅速な製作法の紹介から、博物館の常設展に利用するレベルの本気テクニックも交えながらの実習となります。
毎年、まったくはじめての方から、展示会社のプロの方まで参加されていますので、どなたでもお申し込みして頂いて問題ありません。
当日は、製作した標本をお持ち帰りいただけます。
ちなみに、昨年はこんな面白いものをつくった方もおられました。
*壊れやすいカエルの骨格標本が手にとってじっくり観察できる
*ある海岸の貝類を一堂にあつめて一挙に見ることができる
半数ぐらいの方が、標本持参での参加です。気合いが感じられます。
ちゃんと封入用の標本も用意しておりますので、手ぶらでの参加も大丈夫です。
(過去には北斗の拳のラオウのフィギュアを封入してた人もいましたが・・・)
自然史博物館の役割は、素朴に自然とのふれあい体験をお手伝いするだけでなく、一手間をかけて(実は身近にあるのだけれど)非日常的な体験や理解を提供すること、できれば、標本だけでなく、その”技法”をお持ち帰りできるようにダウンサイジングすることにあります。
この『お持ち帰りできる技法』という部分がとても大切です。もっと言うと、『お持ち帰り』して、まわりの方に自慢していただく、自らが生物多様性の『語り部』になって頂くことです。そして、その方が地域での展示会や観察会に活用していただくことが、博物館の到達目標のひとつです。
こうした普及プロセスを促進するためにも、展示技法のイノベーションが重要となります。そのひとつが封入標本づくりの技法であり、現在も、「より手を抜いて作る方法」や、「よりきれいに作る方法」、「これまで封入できなかったものを封入する方法」、「傷が付きにくいコーティング方法」等の研究開発を続けています。これに加えて、効果的な講座の開催方法や、学校教育でのカリキュラム化や環境政策のなかでどのように組み入れるのか、といった活用の機会と場についてもあわせて社会実験や研究を行っています(例えば豊岡市のコウノトリに関する普及教育/ VIDEO ・ HP )。
セミナーでは、こうした側面についても、多様な分野の知を集積し、実践的に再構築する体系としての「博物館学」を解説しますので、博物館活動に関心のある方も、ぜひご参加頂ければと思います。
(来年度から博物館学芸員養成課程のカリキュラムが大幅に変わりますので、博物館展示論を担当される実務経験ゼロの大学教員の方の参加もウエルカムです!)
(みつはしひろむね)