2009年も12のうち11番目の月が終わろうとしています。最後の1月が、今年を有終の美で飾るものにするために、12月もまた堅実な歩みを発展させたいものです。
恒例のひとはくフェスティバル、今年は11月1日(日)に開催されました。何年ぶりかの雨のフェスティバルになり、深田公園が使えず、野外での設営が予定されていた事業はホロンピアホールと雨よけの通路などで実施されることになりました。この日は県内でもいくつかの同類の施設で類似の事業が開催されましたが、いずれも雨には苦しめられたようでした。
天気予報に合わせて急遽博物館の建物の中で展開されることになった催しは、しかし、どこもたくさんの入館者の関心を惹き付け、終日たくさんの人々で賑わっていました。例年なら深田公園を歩く人たちも、狭い場所に集まることになった出店付近よりは、館内の催しに向かうことになったせいかも知れません。おまけに、秋晴れを期待して野外を散策する予定だった人たちを、休みの1日を博物館に向かわせた効果もあったように見せてもらいました。
午後に「恐竜疾走コンテスト」が開かれ、わたしも審査にかかわりました。恐竜の気分になって走ったり吠えたりするパフォーマンスを比べるという催しです。実際に恐竜がどのような行動をとっていたか、さまざまな傍証から推定されはしますが、実際は誰も見た人はないのですから、正確には分かってはいません。だから、審査するといっても、パフォーマンスする人と同じで、多分こうだったのだろうと自分勝手な想像に基づいて評価するわけです。実際に近いパフォーマンスかどうかという評価はできないのですから、行動を通じて恐竜に抱く夢をどのように表現するかが評価の基準になります。
参加したのは、そうと決められたわけではありませんでしたが、子どもたちばかりでした。恐竜への夢を表現してやろうという若者も老人も、応募してもらえなかったようでした。恐竜が、子どもに夢を与えるほど、若者や老人の行動意欲を呼び起こすということはなかったのでしょうか。それとも、大人は頭の中で恐竜を夢想し、行動で示そうとするのは子どもの手足だけなのでしょうか。
恐竜の話に関連してですが、篠山層群では、丹波竜として有名になった恐竜化石に加えて、さらに貴重な化石の発見が続き、ひとはくと化石の関係はますます緊密になっています。11月下旬には篠山市内で発見された化石についても公表することができ、また全国に発信されました。化石そのものは一見目立たないものですが、学術的にはたいへん貴重な材料です。世の中では、学術的に貴重なものより、多くの人の関心を惹きつける材料の方が高い評価を受けています。しかし、科学の発展は、そのことを通じて技術の革新につなげ、人類社会の豊かさ、安全さを高めると同時に、文化を高め、正邪の判別をより確かにし、人のこころをいっそう豊かにする根源となるものです。博物館は、そのもの自体が多くの人の関心を引く材料を提示し、学びの機会を提供するのと平行して、人のこころを豊かにする素材をさまざまな階層の人たちに理解可能なかたちにして提供し、学びの歓びを生きる歓びに深化させる役割も担っています。学術的に貴重な化石の発見は、博物館活動の活性化にも追い風となる出来事で、フェスティバルのような催事につなげる良い資料が付加されることになります。
せち辛い世の中ですが、ひとはくには前向きの話題が豊富です。ひとはくの館員の日常的な活動が話題の創出につながってもおりますが、それ以上に、ひとはくが重きを置く連携の環の拡大が、着実に成果をあげているためかと思われます。ひとはくを活用される人たちと一緒に、ますます活用し甲斐のあるひとはくの形成に向けて、より多くの人たちとの連携を強めたいと夢を描いています。
岩槻邦男(人と自然の博物館 館長)