岩槻邦男のコラム5

2009年6月16日

 09年度が動き始めてから、もう2ヶ月が過ぎました。その2ヶ月の間に何が展開したか、わたしの周辺をちょっと振り返ってみます。

 年度の移り変わりは、人の異動を演出します。事務系の職員だけでなく、研究職の人たちにも出入りがあります。退職、転出する人を送り、新しく仲間となる人を迎えます。あたらしく博物館の仲間に加わった人が、徐々に博物館に慣れ、活動の中核を占めるようになるのを見るのは嬉しいことです。

 わたしの行動範囲は兵庫県に限定しません。原則としてひとはく勤務は木、金ですから、他の日はひとはくを外から眺める立場でもあります。もっとも、同じ建物の中にいてもメールで交信するのが最近の特徴のようで、どこにいても、いつでも、ひとはくとの連絡が出入りするのは当然です。

 館外では、いくつかのNGOの活動も支援しています。樹木環境ネットワーク協会のグリーンセイバーの検定にはもう10数年協力しています。4月には、この協会の大阪支部の総会をひとはくで開いていただき、公開講演会では話をさせてもらいました。検定に対応したセミナーも、例年アドバンスコースでは1コマだけ担当しておりますが、今年も東京でも大阪でも話をいたしました。いずれも4月中のことでした。NGOといえば、生物多様性ジャパンという組織の名目上は代表も務めています。まったくの任意団体ですが、IUCNの正規のメンバーです。堂本前千葉県知事がIUCNの理事、副総裁を務められた頃に立ち上げた機関ですが、いくつか出版物をつくったりして活動を続けています。今年度は、事業の一つに、世界植物保全戦略の日本での活動を2010年目標に合わせて評価しようと、植物園自然保護国際機構(BGCI)と共同で準備を始めました。

 国際賞、国内賞とさまざまな賞の選考などにも関与していますが、今年度のみどりの学術賞の選考にも参加しました。受賞者が、前の(社)日本植物学会長の和田正三さんと、日本生態学会長の矢原徹一さんでした。どちらも個人的に親しい方ですので、知人の栄誉を喜ばせていただきました。

 ひとはくのセミナーで、昨年度は「博物館で生物多様性を考える」という10回シリーズを終えました。この結果は近くレポートを公表しようと、目下記録の著作を印刷中です。今年度は「日本列島の歴史」と題し、日本人の人と自然の共生という概念がどのように育ってきたのかを検証したいと思っておりますが、7回シリーズを5月に無事立ち上げました。自分でもこれまで学んでこなかったことを、準備のために学習することを楽しんでいます。

 今年の生物多様性の日は東京で、国連大学や環境省の主催するシンポジウムで基調講演などをさせていただきました。「外来種の来た道、行く道」という難しいテーマでしたが、参加してくださった方が最後までおつきあいくださったことで、それなりに対応できたのかと思った次第です。事例報告から、いろんなことを学ぶことができたのも収穫でした。国環研の五箇さんが、クワガタムシを愛好するのは日本人だけで、これは里山の形成と関係があるのではないか、と話されたのは大変興味のあることでした。ついでですが、機会を与えていただいて、内閣のメルマガで、生物多様性の紹介をしています。ひとはくでは生物多様性ひょうご戦略の展開にも多少活動の輪を広げようとしています。

 淡路の景観学校が、10年の実績の上に、新しく専門職大学院を立ち上げられました。その記念式典でも話をさせていただきました。この機構、設立の準備委員会では座長を務めさせてもらいましたが、その報告書は大学院レベルの組織をつくるべきだというものでした。すぐに提案通りにはなりませんでしたが、活動実績の上に、当初の目標に到達されたのには敬意を表し、さらなる発展が見られるようにと期待するところです。

 

 

岩槻邦男(人と自然の博物館 館長)

 

 

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