岩槻邦男のコラム2

2009年4月24日

 4月24日に秋篠宮文仁親王殿下がひとはくを訪問されました。自然史研究機構の研究会を兵庫県で開催され、私的に参加された機会に、研究会の皆さんと一緒に、ひとはくへもお出でいただいたということです。自然史研究機構では、兵庫県立大学自然・環境科学研究所の構成や活動に関心をもたれ、その実情をヒヤリングされるとともに、同研究所の活動舞台でもある森林動物研究センターと人と自然の博物館という2つのユニークな機関を実地調査されました。ひとはくが開館したとき、妃殿下とご一緒にお出でいただいておりますが、今回は、話題の恐竜は当然として、植物、鳥類や昆虫の標本をはじめ、生物多様性情報の管理状況などについても丁寧に調査をされました。

 日本の博物館等施設は、(国立科学博物館を除いて、)普及活動をするのが本務の機関であり、その基盤として研究活動を行うと規定されているようです。しかし、ひとはくには兵庫県立大学の附置研究所が置かれていることから、研究所としての活動と、博物館としての活動が両立することが期待されています。具体的にも、研究スタッフの多くは、研究所所属の教員であって、博物館の研究員を兼ねているというのが実体です。しかし、博物館はイベント会社ではありませんので、生涯学習支援にあたるスタッフが第一線の研究者でないのなら、博物館という看板をかけるのはおこがましいというのが実際でしょう。博物館は生涯学習支援にあたり、シンクタンク機能を果たすために、充実した資料標本と、それを基盤に活発な研究活動を行っている研究者を擁している機関であるはずです。

 だからといって、博物館は研究所そのものではありません。普及活動という言葉の解釈は難しいですが、充実した資料標本を用い、優れた研究者集団を中心に、シンクタンク機能を果たし、生涯学習支援を行わないのだったら、博物館である意味がありません。

 兵庫県立大学の自然・環境科学研究所は、ひとはくが設立された時にひとはくのために創設された機構でした。その後、淡路景観園芸学校、コウノトリの郷公園、西はりま天文台公園、森林動物研究センターがつくられると、これらの機関にも併設されることになりました。ですから、これらの機関の研究者は兵庫県立大学の教員でもあります。今では、ひとはくの自然環境系、淡路の景観園芸系、コウノトリの田園生態系、天文台の宇宙天文系、そして動物センターの森林動物系の研究部門がきれいに並立しています。また、2007年には大学院環境人間学研究科に、共生博物部門が設けられました。今年3月には、ひとはくでまなんだ修士の学生がはじめて巣立ちました。さらに、この4月から、淡路景観園芸学校は県立大学の緑環境景観マネジメント研究科(専門職)となり、ひとはくの中瀬副館長が研究科長を兼任しています。

 これだけいえば、ひとはくは博物館とずいぶん違ったイメージを与えるかもしれません。ただし、ひとはくには教育委員会傘下の研究者もいます。ですから、構成はたいへん複雑です。もちろん、だからといって身分の違いが活動の違いになって現れることが無いように配慮はされています。相互に緊密な協力関係のもとに、生涯学習支援、シンクタンク機能の発揮などにいそしんでいます。

 かつては国立大学の教官も、教官といいながら、研究を第一の課題と考える傾向がありました。しかし、現実には、職種は教官で、学生を教育するのが本務です。ただし、高等教育は第一線の研究者でないと勤まりません。第一線で研究活動を行っていることが大学の教官にとっての必要条件です。ところが、研究に没頭してしまうと、教育を雑用というようになります。残念ながら、平気でそういう教官が散見されました。博物館等施設も同じだったかもしれません。今、ひとはくでは、博物館らしい活動に力が注がれます。私も、日本で博物館らしい活動に参加する歓びを味わっています。

 

岩槻邦男(人と自然の博物館 館長)

 

 

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