ミツバチが収穫ダンスを踊り、その距離と方向の情報を読み取り、その情報を使い
こなしていると信じられてきた。ところが、実際に収穫ダンスのデータを取ってみる
と、信じられている実態と違うことがいくつか見つかる。
とくに、餌場に行ったことのない働きバチは、ダンス情報を「受け取っても」餌場の
場所に関するダンスをまったく踊ることができない事実には驚かされる(もちろん何
度か行けば踊れるようになる)。
また、最近の神経生理学や進化発生生物学の発展から「ダンス言語所持」を眺望
してみると、いろいろ疑問が生じてくる。尻振りダンスの客観情報を読み取ることは、
最高レベルの高度な能力を必要とするのだが、それが100万ニューロン程度の「微
小脳」で可能なのか、という疑問が湧いてくる。
ミツバチが得意とする嗅覚情報を、実験系から完全に取り除くことは不可能に近く、
今までの実験的な証明を難しくしている。ロボット蜂の実験でも、その実力は本物の
1/5〜1/10程度と言われている。
この「実力」は漏れでた匂い情報によるものと考えることができる。
ミツバチの世界に、匂い「言語」とダンス「言語」がある場合、その状況を精査して
みると、古い感覚系の匂い「言語」を差し置いて、高度な情報処理系のダンス「言
語」は進化しようがなく、萌芽的な状況のままで存在していることが推測される。
ダンス「言語」を使っていないとすれば、ミツバチたちはなぜ収穫ダンスをするのだ
ろうか。現在の推測は、飛行の興奮が蓄積したとき、興奮が漏れ出して、通常使用
している飛翔筋や歩行筋を発動させてしまうというものである。いうなれば、生理的
条件がそろうと、つい出てしまう「くしゃみ」や「汗」のようなものと考えている。
大谷 剛(自然・環境マネジメント部)
背番号をつけた働きバチ: 収穫ダンスの実験では必ずしも個体マークはつけない
のだが、個体の日齢や経験が関係するので、つけるべきである。
観察巣箱: 餌場から帰ってきた働きバチがどのようなダンスを踊るのか、踊らない
のかをこの観察巣箱でチェックしていく。