先日、川の観察会に参加していた高校生から、博物館ではどんな仕事があるのか、話が聞きたいと尋ねられました。ひきつづき、その観察会が終わったあとも、某大学の4年生にも同じような質問を受けました。どちらも、標本収集や展示製作、観察やセミナーの実施といったこととは別に、環境問題に関する国際協力について関心があるが、HPを見ているだけでは分からないということでした。
そんなわけで、博物館の取り組みを少し紹介したいと思います。

国際的な協力という点では、ボルネオジャングルスクールをはじめとするマレーシアサバ州のボルネオプロジェクトや、地球規模生物多様性情報機構GBIF)への参画などがあります。こうした生物多様性に関するプロジェクトとは別には、JICA(国際協力機構)からの依頼の受けて、海外の方々に専門的なセミナーを実施しています。
先週の金曜(9月16日)に、JICAと名古屋大学が事務局となったプログラム「土地利用と自然資源分析の情報管理技術」に関する実習を開催しました。参加されたのは、世界各国の環境や資源管理に関わる行政職員8名、スタッフ2名です。出身国もバラバラで、アルゼンチン、ブルキナファソ、カンボジア、インド、ケニア、マラウイ、ミャンマーです。各国の天然資源管理を司る重要なポストで働く方々で、なかなかこちらも気合いが要ります(各国を代表して来られているので、入館者として各国の人口に換算して加算したいぐらいです・・・)。

IMG_0032a.jpg博物館が受け持つパートは、丸1日の講義と実習です。収蔵庫を案内して、標本管理やデータベースのシステムについて解説。そして、生物多様性情報を活用した生態系保全計画や自然再生の立案に関するケーススタディーを通じて、自然史系博物館の社会的な役割について解説することです。こうした解説のあと、実際にパソコンでGIS(地理情報システム:パソコンで地図になった情報を扱う小難しいソフト)を用いた資源情報の入力とマッピング作業を行います。

ここでは、市販の高価なGIS(数十万円する)を使ったスキルや、ややこしい統計解析や処理・加工を教える訳ではありません。なぜなら、今回の参加者が使えるようになっても、ソフトが数台しかなくて(高価なんで)、各国で数名しか扱えないようなスキルを身につけて帰国しても、資源管理やデータベースの構築の役に立たないからです。各国で関心のある若い人が自分の力で自由にデータを整備したり、解析できるような「ツール」と「スキル」がセットで提供されることが必要となります。
さらに、国全体の膨大な天然資源管理を対象とする訳ですから、データ入力を彼ら一人で対応するわけには行きません。アルバイトの方や職場の同僚などに協力を求める必要があります。そうなると、「ややこしい」ソフトで「高価」だと無理なんです。誰もが自由に、コツコツとデータ入力して、地図づくりが面白いと思ってもらえる技法を提供することが重要な訳です。

そんなことで、無料のGISソフト、無料で使えるデータを駆使して、短時間に、僕のいいかげんな英語でも視覚的に理解できるようなツールを紹介しないといけません。 これがミッションです。 IMG_0034.jpg実習では、すでにフリーのGISソフトである Q-GISを利用した専門的な講義がなされています。昨年度は、当館の講義で担当しましたが、今年は名古屋大学のほうで担当されました。Q-GISはとても分かりやすい操作画面でデータ編集や空間処理、表示などで優れた機能を持っていますが、解析やメッシュ状のデータ(ラスターデータといいます)の処理には課題があります。

この部分を補うために、DIVA-GISというフリーのGISソフトを利用します。このソフトは、カリフォルニア大学バークレー校のR.Hijimansを中心に開発されたもので、ペルーの国立ポテト研究所やMuseum of Vertebrate Zoologyなどが、途上国の天然資源管理の一助になるように支援して製作されたソフトです。テーマ的にもぴったりなうえ、各種解析機能も豊富で、研究論文の解析にも活用できるレベルの充実ぶりです。ただし、データ生成や編集の機能は貧弱なんで、Q-GISと組み合わせて使うのがベスト・ミックスなんでしょう。
それと、このDIVA-GISのページには、各国のデータをダウンロードできるページがあります。南米では絶大な人気を誇るので、知ってる研修生もいるかと思いきや、DIVA-GISもデータダウンロードのページも初体験とのことでした。これが大変便利で、今回参加された方々からは、「こういう技術が知りたかったのよ! by ケニアのお姉さん」とのことで、ほっとしました。ページは英語ですが、関心のあるかたは、ぜひ体験してみてください。

一方で、すでにGISデータになっている電子ファイルを読み込むには、Q-GISは便利ですが、一から位置情報が入ったデータをつくるには、ちょっと面倒な作業が伴います。できれば、「エクセルを使って、位置情報を手軽に登録して行きたい」、「GoogleMapsを使って登録したい」というのは、万国共通の感想のようです。そこで、GoogleMapsとエクセルを使ったデータ取得ツールであるオリジナルソフト「getlocation」を用います。毎年、このJICA用にカスタマイズしています(画面はtokyo datumになってますがWGS84にもなる)。簡単に位置情報が取得できるので、みなさん持って帰って各国で使って頂けそうです。
getlocation_buruki.jpg  burukina.jpg
(左:GoogleMapsとエクセルを使って位置取得します。右:Diva-GISでブルキナファソの基盤地図をつくり、ポイントデータをプロット。)

こうして、午後からの約2時間ちょっとをかけて、自分の国の基盤データをDLしてGISデータとして整備し、天然資源のGISデータをつくり、なんとかマッピングできました。
どの国であっても、簡単な資源情報を入力し、色んな地図上に重ねあわせて、各資源が位置する場所の標高や土地利用、気候情報との関係を自動取得する方法を習得していただきました。

博物館では、研究、展示やセミナーだけでなく、こうした仕事もあります。
最先端の研究や技術を使って全力投球する局面も必要ですが、国際協力や色んな世代や職業の人々に技術提供や担い手育成するためには、ダウンサイジングとカスタマイズが必要となります。このあたりの工夫が博物館の仕事に要求されています。

博物館では、特注セミナーというかたちで、幼児から社会人、高齢者の方まで、あらゆる世代の方々を対象とした生涯学習を提供していますので、ぜひ体験して頂ければと思います。

(みつはし ひろむね)

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