皆さん、図鑑を信用しすぎていませんか?本当に正しいことが書いてありますか?
図鑑だって人が作ったもの。少しくらいは間違いもあります。そんな間違いを見つけられると楽しいですね。
今日では本屋に行けば、きれいなカラー写真や色鮮やかな絵が掲載された植物図鑑が所狭しと並んでいますが、ひと昔前までは、「植物図鑑」といえば、「牧野植物圖鑑」でした。これは「日本の植物分類学の父」と呼ばれる牧野富太郎が書いた図鑑で、白黒の精密で美しい線画は生きた植物をリアルに再現したものと好評を博してきました。
ところが、よくよく見ると、この図鑑に載っているヘビイチゴの図には植物学的にはいくつか間違った部分があります。ではどこが違うのでしょうか。標本と比べてみましょう。
ちょっと難しいかもしれませんが、
植物の生長様式には単軸分枝と仮軸分枝というものがあります。単軸分枝とは、枝の先の芽がどこまででも伸びていく生長のし方です。また、仮軸分枝とは、枝の先の芽は途中で止まってしまい、脇から新しい芽が伸びていき、その芽もまた止まり、といったことを繰り返して大きくなることです。
単軸分枝の場合は、枝と葉の間にできる芽が生長して、花になり実をつけます。しかし、仮軸分枝の場合は、枝の先が花になり、その先に伸びる枝は、葉と花との間から伸びます。
写真は、ある先生がブドウ科の植物を使って仮軸分枝の説明をしているところです。
橙色で示した枝は蔓になって終わります。反対側には白色で示した葉があり、その間から黄色で示した新しい枝が伸びているのが分かります。
これをヘビイチゴに当ててみると、初めの枝は花で終わります(橙色)。花の反対側には葉があり(水色)、花と葉の間から新しい枝(黄色)が出ていますね。つまり、ヘビイチゴの走出枝(ストロン)は、仮軸分枝を繰り返しながら生長している、ということが分かります。
では、改めて牧野植物図鑑の絵を見てみましょう。
もうお分かりですね。
牧野植物図鑑の絵はヘビイチゴの走出枝を単軸分枝だと考えて書かれています。
牧野さんも植物の基本は単軸分枝をするものだと思い込んでいたのかもしれません。やはり実物に勝るものはありませんね。
さあ皆さん、ヘビイチゴを上手に引き抜いて観察してみてください。これがわかれば、皆さんは「牧野富太郎を超えた」と言えるかも?
山本伸子(自然・環境評価研究部)