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さて、企画展示室から外に出ると、明治時代の虫売りの屋台がデンと置いてある。
ここは鳴く虫を愛した明治の文豪小泉八雲(ヘルンさん)の展示コーナーで、その作品「草ひばり」や「虫の音楽家」の紹介パネルや謎の造形師Y・フジワラの大型屋台と謎の木工職人T・ケンヂの体験用屋台などがある。屋台からは、ヘルンさんのエッセー「虫売り」を元にした、謎の講談師河南堂珍元斎と呼ばれるあの怪人着物男の自作自演の講談の声が流れている。
珍元斎は、普段、総務課でデスクワークをしているようだが、吾輩たちのように脱皮をして着物姿となり、来館者に時々、講談を披露している。鳴く虫の持ちネタは3つあり、
卵の頃の刷り込みで鳴かないオスのキリギリス「ノコギリ名人ぎっちょん君誕生!」
やイソップ物語で有名な「アリとキリギリス六変化」、
そして、ヘルンさんが長屋の仲間のおっちょこちょいで仕事が長続きしない喜六に歴史や売り声を教える「虫売り」の話である。
そういえば、近所の小学生や高校生もこの男にだまされてか寸劇で出演している。特に珍元斎の相方の四十一斎という太った男はひどい。どんな役でもやる男で、虫売りやフンコロガシまでやっている。フンコロガシはとても似合うが、あの姿はとても吾輩たちキリギリスには見えない・・・あれでは緑色のゴキブリである・・・が、なかなか動きがコミカルでつい、吾輩も笑ってしまう。他にも、黒子の名人御免奈斎や司会の達人綾毬奈斎など少年少女からおじいさんまでの多様な構成の河南堂一座である。
この夏、河南堂一座は、松江や明石天文科学館、有馬の旅館瑞宝園など依頼されて、鳴く虫公演で、大忙しのようである。にもかかわらず、あの四十一斎という男はなぜか痩せない。
話は展示室にもどる。ときどき遊びにくる子どもたちは床几に座り、吾輩たちの美しい声のCDや虫売り講談CDに耳を傾け、ここで飼育されているキリギリスやエンマコオロギ、ヒメギス、ツユムシ、スズムシなどを興味深げに観察している。しかし、虫たち昼間なかなか鳴かない。だが、夜になると美しい声を奏でる。これが閉館した後なので、吾輩はとても残念である。
・・・・・・つづく(だろう?!) 鳴目 虫石